経済学を学ぶ人が絶対に知っておくべきこと 無意識にあなたの価値観を支配する怖さ
政策思想としての経済学
世の中閉塞感に満ちあふれているせいか、最近非生産的で反知性的な言説ばかりが出回っています。そんな中、『ちょっと気になる政策思想―社会保障と関わる経済学の系譜』(権丈善一著、勁草書房)は、わくわくするような知的刺激を読者に与えてくれます。こういう知的で示唆に富む本に出合えるのは、実にうれしいことです。
経済学者は、「万能の理論」を求めて研究を続け、さまざまな「科学的手法」を駆使し、より精緻なモデル、より包括的な「経済理論」を構築してきました。
「厳密な科学的手法に依拠した学問」といわれる経済学ですが、真の社会「科学」たりうるか、という話になると、今なお大議論があるようです。
何となれば、経済学の世界には、複数の、それこそ学者の数だけの異なった経済「理論」が「同時並行」で存在しているからです。
自然科学の世界で学者の数だけ科学理論=真理が同時に存在する、などということはありません。新しい科学理論が生み出されれば、過去の理論は吸収されるか、乗り越えられていきます。
科学の世界では、「真理は1つ」です。
他方、本書の著者を含め多くの論者が指摘するように、経済学における「理論」とは、要するところ「価値判断が1つの理論的体系にまとめられているもの」です。そしてその価値判断の出発点は個々の研究者の問題意識(=彼が追い求める「答」)であり、ゆえにその数だけ「経済理論」が同時に存在しうるし、現に存在しているのです。
言い換えれば、すべての経済学派は皆それぞれに「思想性」を持っていて、私たちはその「思想性」も一緒に経済学を学んでいるのです。そしていつしか、知らず知らずのうちにその経済学が私たちの物の見方・思想を支配するようになります。
このことをよくよく自覚すべき、と著者はいいます。「右側にせよ左側にせよ、経済学者の政策論は余裕を持って眺めるべし。一段高いところから俯瞰するような目線で見なさい」と。
経済学の根底には思想がある、ということは、経済学は「政策思想」を内包しているということです。なので、経済学の系譜はそのまま「政策思想―経済政策―の系譜」でもあります。
すなわち、経済学とは、実際の経済政策を支える理論的・思想的根拠として機能する「使える学問」なのです。このことが経済学を「社会科学の王者――現代における万能の政策ツール」たらしめた大きな理由です。
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