音楽家に学ぶ、プレゼンで生きる緊張対策術 アガリ症の問題にも役立つ方法を伝授

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ここいちばんのとき、緊張してしまう人も多くいるでしょう。今回は、何度も観衆の前に立つ音楽家が自身の経験をもとに実践する緊張対策を紹介します(写真:iryouchin/iStock)

筆者はホルンという楽器を演奏している。

このホルンという楽器、西洋音楽で用いられる楽器の中でも最もコントロールが難しい楽器のひとつで、「音が外れやすい」ことで有名だ。

非常にレベルの高いオーケストラでも、ある程度本格的な曲目になれば、演奏会でホルンの音が外れるのを実際に耳にすることができるだろう。あのベルリン・フィルだとしても、だ!

筆者は6歳のときにピアノを習い始めたが、中学生のときに始めたホルンという楽器の「思い通りのいかなさ」には大いに苦労した。

もともと子どものころから、人前に立つことは得意だった。

私事で恐縮だが、子どものころは子ども服のモデルをやっていたこともあり、少しテレビに出演したり、ファッションショーに出たり、カメラを向けられ大人に凝視されるということには訓練されていた。

そんな自分でも、初めてピアノの発表会に出演したとき、当日の朝からずっと得も言われぬ重たく暗い感覚に押しつぶされそうになった。6歳の子どもには、それに「緊張」や「恐怖」という言葉をあてがうこともできなかったが、なんだかやたらと心臓がドキドキし、足元が真っ暗闇に感じるような強烈な感覚的体験だった。

その現象は、発表会の会場に着くとさらに強まり、リハーサルになるともう一段、自分の出番の3つ前になって舞台袖に呼ばれるともうピークに達した。逃げ出す、という選択肢を考えることも当時はできなかったが、記憶を辿ると、泣きたいような叫びたいような気持ちでいたのを覚えている。

「闇から光へと踏み出し生まれ変わる」ような体験

……しかし、ここから不思議なことが起きた。

出番が近づくにつれ、心の中から、ワクワクするようなゾクゾクするような別の気持ちが芽生え始めたのだ。そしていよいよ自分の出番になると、舞台袖から舞台へと一歩踏み出したときに、何か体がフワッと浮き上がって、「よし!やるぞ!」という決意のようなものを強く感じたのである。

暗闇の舞台袖から、光の当たる舞台へ。その境界線をまたぐときに、何か生まれ変わるような感覚さえあった。

本番の演奏は、ドキドキしたし手も震えたが、とにかく思い切って演奏しようという気持ちが最も強く、それまでのピアノのレッスンで弾いたどのときよりもスケールの大きな演奏ができた。聴衆と自分の心がつながっているように感じて、楽しかった。

以後、演奏のたびにこれと似た体験を繰り返した。

中学2年のあの日までは――。

次ページ中学でホルンを演奏することになったが…
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