音楽大学で一度挫折した後、ITコンサルティング会社を起こし、その会社を大きく育てたのちに売却に成功、40代になってから音楽大学に入り直した人物がオーストラリアにいる。
それが、ホルン奏者のスーザン・デ・ウェジャー(Susan de Weger)だ。
彼女は今、ホルンの演奏活動のかたわら、ITコンサルティング会社を経営した経験を、メルボルン音楽院で学ぶ学生たちへのビジネス教育およびキャリア形成支援プログラム“IgniteLAB” を運営する形で還元している。
冒頭の言葉は、The Entrepreneurial Musicianにおけるインタビューで、そのデ・ウェジャー氏が語ったものだ。
ビジネスで成功した人物がなぜ音楽では挫折したのか
ふつうは、「音楽での挫折から立ち直り、どうやってビジネスで成功できたのか?」という問いになるだろう。
しかし、「なぜ、ビジネスの高い能力のある人物が、音楽では手痛く挫折したのか」という問いが、このインタビューの背景にあった。
そして、ビジネスで成功した方法が実は音楽家・芸術家として充実した活動を自分で築きあげていくカギになる。
音楽の世界では、楽器が上手に演奏できないと、あるいは演奏のプロとしてタフに生き抜いていないと、「何の能力もないダメなやつ」と断じられがちだ。
筆者自身、音楽大学での学生時代、残念ながら技術的に誤った指導と、腰痛により演奏能力を大幅に失ってしまった時期がある。
そこから回復し、さらに上達していったのは在学時の最後のほうであったし、卒業後、いちおうプロ演奏家のはしくれとして細々と演奏活動を始めた頃になってからであった。
そのため、音楽大学時代の大半は、「できない奴」「かわいそうな奴」……。そんな目を絶えず向けられているように感じ、自尊心や自己肯定感はボロボロになっていた。
入学当時の、「一目置かれる」目線が、調子を崩したとたん、サッと冷たく変わっていたように感じたことを思い出す。その救いのなさには、いまでもゾッとしてしまう。音楽大学という場所は、どんな国や学校でもある程度そういう面があるだろう。
そうやって、「もうダメだ」と周りから思われ、自分でも「もう無理だ」と思わざるをえないような人が、自分で会社を起こして成功する。
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