想像力が音楽家にもたらした新しい夢と転機 音楽家は単に想像力が豊かな存在ではない

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音楽家のもつ想像する力はどのように転用できるのでしょうか(写真:yenwen/iStock)
『一生懸命努力して、精一杯頭を使って、そして目一杯夢を見るのが大事だと思うんだ。夢が、現実のものにできると本当にありありとイメージできるなら、あとはもうその機会がいつ巡ってくるかだけだと思うんだ』
――by TIME FOR THREE コントラバス奏者 ラナーン・マイヤー

音楽家が想像力豊かであるというイメージを持たれている方は多い。

しかし、音楽家にとって“想像力”は、漠然とした「才能」や「芸術性」といった「浮世離れした、普通のひとは持っていないもの」ということではない。想像力は音楽を演奏するうえで技術的に欠かせない具体的な訓練を経て身につけ、向上させることができるものだ。

どんな楽器でも、奏でたい音を奏でるためには体を使って、物理的に行わなければならない。弦楽器であれば弦を適切に指で押さえ、弓で適切に弦を擦る必要がある。管楽器であれば、適切な指運びを行わなければならないし、唇・舌・息を適切に操作しなければならない。けっこう、肉体的でややこしい操作をしなければならないのだ。

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それがある程度自然に操作できなければ、音楽表現に意識が向けられず、合奏やアンサンブルで他者と演奏するときに周りの音やタイミングを聴き合わせていくような注意力の余裕もなくなる。そのため、肉体的・物理的な運動や操作を徹底的に反復し身につけていく。

ただし、その作業は「これから奏でようとする音」と対応させて行わない限り、いつまでも複雑なままだ。だから、技術を習得していく過程で、「指をああしてこうして」とだけ考えるのではなく、「Aの音はこうやって出す、Cの和音は身体的にはこうやって弾く」というふうに必ず音について考えながら操作を覚え身につけていく。

想像することは演奏の必要条件

つまり、音を出すための肉体的・物理的な操作をやるにあたり、「この音を出したい、こんな音を奏でたい」という、『音のイメージ』を具体的に持っておかなければならないのだ。想像するという行為は、物理的な運動と操作を対応させるものであり、練習したものを引き出すガイドであり、演奏が機能するための必要条件なのだ。

……前置きが長くなってしまったが、そのことを知ったうえでもう一度冒頭の言葉を読むと、これは安っぽい自己啓発の類ではないとわかる。

今回は、音楽家がビジネスを考えるとき「想像力」を転用・応用できることが強みだと思う事例を紹介しよう。

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