想像力が音楽家にもたらした新しい夢と転機 音楽家は単に想像力が豊かな存在ではない

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これは、既にある商品を異なるマーケットに投入するときにどのようなマーケットに可能性がありそうか?を想像するのと同じような想像力ではないだろうか。

このインタビューでは他に「人脈作り」「芸術音楽市場と商業音楽市場のちがい」という示唆に富むテーマが魅力的に語られている。全文はこちらからご覧いただくとして、最後にもうひとつ、「想像力」について紹介しよう。

行動を思いつくことも想像力

あるとき、TIME FOR THREEのメンバーは演奏会に向けて移動するため乗り込もうとした飛行機で、楽器の持参を理由に搭乗拒否されてしまう。

そこで彼らが取った行動は、喧嘩するのではなく「抗議の意思の表明のためにその場で演奏をし、その動画を公開すること」だった。

この動画が話題となり、次のような変化をもたらした。

――『(その後)楽器演奏者を守る法律が施行された。楽器を持って国内を移動することを認めるものだ。今ではどんな楽器でも持ち込みが許されている。それも、TIME FOR THREE のやったように、理不尽な搭乗や持ち込み拒否に対して、何人か音楽家たちが人道的・平和的に抗議したケースが話題となったおかげなんだ』――

そのような行動を思いつくこと。これも想像力である。

最後に、後日談。

――『あるときサウスウェスト航空のパイロットと友達になる機会があって、彼は音楽が大好きでコントラバスも大好きで、音楽の話ばかり一緒にしていた。ぼくはそのときコントラバスを持っていなかったけれど、弓を持ち運んでいたから、彼はそれに気づいた。そこで、ニックとザックの演奏をオファーしたんだ。航空機内で演奏をしようか、と。すると実際に、ニックとザックはフライト中の機内演奏会をすることになったんだよ』――。

 楽器を理由に搭乗拒否された。

それが今度は、楽器があるから機内コンサート。

誰がこんなことを想像するだろう?

だからこそ、想像することが大事なのだ。

バジル・クリッツァー ホルン奏者

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Basil Kritzer

アメリカ人の両親を持つ香港生まれ京都育ちのアメリカ人。1歳で来日し、日本の保育園、公立小学校に通う。「お受験」で中高一貫教育の私立校に入り、吹奏楽部に入部した際にホルンに出会う。高校卒業後はドイツ留学。エッセン・フォルクヴァング芸大ホルン科卒業。在学中は極度の腰痛とあがり症に悩み、それを乗り越えるために「アレクサンダー・テクニーク(Alexander Technique)」という欧米の音楽、演劇、ダンスの現場では広く知られ取り入れられている「身体の使い方」のメソッドを学ぶ。日本に帰国後、このメソッドの教師資格を取得。これまでに東京藝大、上海オーケストラアカデミー、大阪音大、昭和音大はじめ各地の教育機関で教えている。現在は沖縄県立芸術大学非常勤講師。尚美ミュージックカレッジ特別講師。著書に『マンガとイラストでよくわかる!音楽演奏と指導のためのアレクサンダー・テクニーク実践編』『バジル先生とココロとカラダの相談室シリーズ』(ともに学研)、『徹底自己肯定楽器練習法』(きゃたりうむ出版)など多数。ブログ:basilkritzer.jp(プロフィール写真:©学研)

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