この「確信」こそ、想像力である。
この時点で、グループはなんの名声も稼ぎも得ていない。そこで、貧乏学生がお金とエネルギーを、ただの夢想や享楽でないことにつぎ込む決断をしているのだ。それは自らのグループが現実に生み出す音楽の質からもたらされている自信が故でもあるが、このお金が返ってくるという確信は、まぎれもなく「想像力」が生み出しているものなのだ。
踏み台の重要さ
数年後、グループも成長して、仕事を広げてくれるエージェントを見つけるために音楽メッセに参加したときのこと。
――『ぼくらのブースには5、6社しか見に来てくれなかった(笑)。70とか80社を想像するものなんだけれどね。良いニュースは、ブースに来てくれた会社のなかに、ブッキングエージェントが来てくれていたこと。そこで最初のぼくらのマネジャー・ブッキングエージェントとの契約につながった。この出来事はぼくらのキャリアの最大の飛躍や転機というわけではないけれど、間違いなく重要な踏み台のひとつではあった。他のチャンスにつながっていったから。
最初のこのエージェントは、あまりたくさんの仕事をもたらしてはくれなかった。けれど、いくつか作ってくれた仕事が、次のマネジメント会社の興味を引きつけてくれて、その会社はもっと仕事を作ってくれた。そからまた次のマネジメント会社へ……。というように次の仕事、次のフェーズへとつながっていった。
ぼくは、「踏み台」ということをとても信じている。一晩にして、何か大きな幸運があって夢のようなキャリアが実現するなんて本当にまれだ。現実には、過程を経て成長していくものであるはずだ。このことは、若いアーティストや、これからアーティストになろうとする人たちにとっては大事なことだと思う。自分が自分に期待している方向に沿った軌道にちゃんと乗って物事が進んでさえいるならば、それは常に、うまくいっている、成功できていると捉えるべきだと思う』――。
想像することが見下されたり嘲笑されたりするとき、それはたいてい、「一晩で大きな成功をすること」を夢見ていると思われてしまっているときではないか。
しかし、音楽家が自らのキャリアを作り上げるときに必要な想像、巡らせる想像は、「次にどのような展開になるかはわからないが、巡ってきたチャンスの中の価値や、広がりうる未来を想像すること」なのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら