19世紀から進化しない音楽教育に欠けた視点 起業して成功したメルボルンのホルン奏者

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音楽の世界の「評価」と、広い社会で生きていく力の間に、結びつきがないのだ。あるいは、音楽の世界の「評価」は、もしかしたら現代社会においてアテにならないものになっているのではないか?という疑念が湧いた。

それが、冒頭に記したデ・ウェジャー氏の言う『音楽教育モデルは19世紀のモデルで固着してしまっている』ということなのかもしれない。

デ・ウェジャー氏は、従来型音楽教育モデルの特徴として、いくつか重要な指摘をしている。

「音楽教育では、コンサートソリストになるとかオーケストラ団員になるといった1つの特定の結果を得ることばかりに話が集約していってしまっている。でも、そういう職業にはこの国で輩出している音楽教育の卒業生のうち0.4%しか就かないのに。その乖離の深刻さが目立つ」 

音楽家が自身の活動をどう実現するか

これは、日本でもよく指摘されることだ。音楽大学に行くことのリスクや、「音楽では食っていけない」という主張をするための根拠になっている。

しかし、デ・ウェジャー氏は、日本でありがちな「音大は学生を騙して金を取っている」というような、やっかみのような非建設的な意味のない悪口を言っているのではなく、「その現実をふまえて、音楽家がフリーランサーとして、あるいは音楽以外の職業を通じて自らの芸術活動をどう実現するか」を考えよう、教育しようという立場である。

その具体的な形が、先出の“IgniteLAB”である。その活動の一例を、デ・ウェジャー氏の言葉で紹介しよう。

『高校生を対象にした講演で、大学で音楽を専攻することを考えている子たちに伝えている。

“音楽家の本当の生活はいろいろなことをするものだ。演奏もするけれども、それ以外もたくさんの仕事や業務に関わったりする。音大で受ける教育にはとても価値があって、応用できるもの。ただし、商業やビジネスの勉強と訓練もあなたたちには必要”、と

また、高校生の時点で楽器の演奏が上手な子たちで大学ではエンジニアリングや科学を専攻するつもりの子たちには、どうやったら音楽生活を続けられて、音楽から学ぶことや得ているものが就職・転職市場でどう有利になるかを話す。他者との協同・よく聞くこと・ディテールへの注意力といった、音楽を通じて培っているものを適切にアピールすればよい』

と話し次のように続ける。

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