音楽家に学ぶ、プレゼンで生きる緊張対策術 アガリ症の問題にも役立つ方法を伝授

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1:感じていることをすべて口に出す

たとえば、プレゼン当日、朝起きたら色んな気持ちや感覚が沸き上がるかもしれない。身体が重く感じたり、不安を覚えたり、あるいは楽しみでどうしようもないくらいかもしれない。身体で感じることも、心で感じることも、すべて声に出して言い続けよう。こうすることで、自分の現在地・現在状況とより接点を持てる。これは家でも楽屋でもリハーサル室でも、本番舞台袖や 本番中の休みの小節の間でもやっていることだ。

2:空間を感じ、感覚を活性化する

会場に着いたら、その会場の中を歩き回ろう。天井や床、壁など、あらゆる方向や場所を眺める。そうやって、まず視覚的に空間感覚的に、空間全体を自分の内側に取り込んでいく。次に、その場を音で感じよう。人の話し声や衣擦れ、空調の音などが聴こえるだろう。それらのさまざまな音が、その場にどのように響いているか、感じとろう。そういったことをしながら、空間を触覚的にも感じよう。

まず会場の温度はどうなっているだろうか? 場所によって温度や空気の感じが異なっているかもしれない。また空気が流れているのが肌で感じられることもある。床の堅さや材質を手や足で触れたりコツコツ叩いて感じることもできる。そうやって自分の内側と外側への感覚的な気付きに意識を向けてゆく。

義務感や恐怖感には良くない副作用がある

3:「~が好きだ」と声に出す

1や2をやってだんだん落ち着いてきたら、今度は本番に向けてエネルギーを高める。そのために、「~が好き」と声に出す。「~」は何でも構わない。好きな食べ物、動物、趣味、場所、季節など思いつくままに「~が好き」と声に出そう。その好きなものや好きなものと一緒にいるところを想像しながら。好きなことを考えることで、そもそも仕事をやっている根源的なモチベーションを思い出しやすくなる。

義務感や恐怖感というのは、確かに強いエネルギーで使い勝手が良いが、嫌になって疲れるという良くない副作用があり長続きしない。言うなれば石炭を燃やして燃料にしているようなものだ。対して「好き」「やりたい」という意欲・望みは、とてもクリーンで実は巨大なエネルギーだ。言うなれば太陽エネルギー。ただし、手っ取り早くはない。このエクササイズは太陽エネルギーを使えるようにしていくものだとも言ってよいだろう。

以上、1~3をそれぞれ2分ほどだけでもできるし、1時間ほど時間をかけることもできる。 何回でも好きなだけ繰り返すとよいだろう。

また、プレゼン当日はまだ先でも、すでに緊張や不安を感じているなら、毎日少しずつでもこのエクササイズを繰り返しておくと、さらに効果的だ。

幸運を祈る!

バジル・クリッツァー ホルン奏者

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Basil Kritzer

アメリカ人の両親を持つ香港生まれ京都育ちのアメリカ人。1歳で来日し、日本の保育園、公立小学校に通う。「お受験」で中高一貫教育の私立校に入り、吹奏楽部に入部した際にホルンに出会う。高校卒業後はドイツ留学。エッセン・フォルクヴァング芸大ホルン科卒業。在学中は極度の腰痛とあがり症に悩み、それを乗り越えるために「アレクサンダー・テクニーク(Alexander Technique)」という欧米の音楽、演劇、ダンスの現場では広く知られ取り入れられている「身体の使い方」のメソッドを学ぶ。日本に帰国後、このメソッドの教師資格を取得。これまでに東京藝大、上海オーケストラアカデミー、大阪音大、昭和音大はじめ各地の教育機関で教えている。現在は沖縄県立芸術大学非常勤講師。尚美ミュージックカレッジ特別講師。著書に『マンガとイラストでよくわかる!音楽演奏と指導のためのアレクサンダー・テクニーク実践編』『バジル先生とココロとカラダの相談室シリーズ』(ともに学研)、『徹底自己肯定楽器練習法』(きゃたりうむ出版)など多数。ブログ:basilkritzer.jp(プロフィール写真:©学研)

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