岐阜大、96年新設学部「廃止」の大いなる波紋 地域科学部→経営学部、教員や学生は猛反発

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企画・評価・基金担当の福井博一理事は「地域科学部の廃止ではなく、発展的な再編だ。高度な専門性を持った人材を育てるために、入学時からより明確な目標を持った学生を集めたい」と話す。

県内の8割以上を占める中小企業や地元自治体で経営マインドを持って活躍できる人材を育成、さらに県内から名古屋大や南山大、滋賀大、富山大など他県の経済・経営系の学部へ流出している学生を取り込むため、地域科学に代わり経営学の「学位」を出すことも検討しているという。

今年4月に名古屋大と法人統合を目指す協議を開始した影響も隠さない。「世界的な研究・教育の拠点を目指す名大に対し、岐大は地域活性化の中核拠点となることがミッション。地元企業や地域社会のマネジメントを学ぶ学部の創設に、全学が一丸となって取り組んでいきたい」と福井理事は強調する。

教学・附属学校担当の江馬諭理事は「国の財政状況が厳しいなか、現在のようにすべての県に1つは国立大学がある状態が続くとは限らない」と、国立大学が置かれた経営環境の厳しさを背景に訴える。

国からの運営交付金は年々削減され、積極的に自主財源を獲得し、経営的に自立する努力が求められている。岐阜大も企業との合同研究拠点となる「地域連携スマート金型技術研究センター」を開設したほか、敷地内に移転した県の中央家畜保健衛生所と共同で教育・研究を行うなど、むしろ「地域」連携を強化する流れが今回の学部再編に結びついているというのだ。

学部側は真っ向から抵抗

しかし、こうした大学上層部側の考えに、学部側は真っ向から抵抗する。

「大学が難しい局面にあることはわかるが、経営のみにフォーカスしては地域科学部の継承とは言えない。予算が苦しいなか、コストをかけて学部・学科の大幅な再編をするよりも、地域科学部に新コースをつくるほうが現実的ではないか」(富樫学部長)。

「面接では商業高校の生徒が『経済だけでなく広く地域について学びたい』と志望動機を語ることもある。地域科学部の学生は目標が明確でないのではなく、興味関心の幅が広いだけだ」(地域科学部教員)。同学部の教授会では、対抗案として現状のカリキュラムのうち「会計学」「マーケティング論」を充実させ、「産業・まちづくり」コースを「産業・経営」に、「自治政策」を「地域経営」とする方針が挙がっているという。

置き去りにされているのは当事者の学生たちだ。学部の存廃について、学生にはいまだに正式な説明はない。学生の1人は「学生も大学の重要なステークホルダー。私たちに何の説明もなく重要なことを決めないでほしい。地域科学部だけでなく他学部生からも署名が集まっており、改革の進め方を問う声が多い」と指摘する。

一方の経営学部新設についても、他大学への進学者数を基にした志願者数の予測はあるものの、高校生へのアンケートなど具体的なニーズ調査はされていない。少子化で大学進学者数が減少しつつあるいま、既存の経営学部よりもよほど魅力的な特色を打ち出さなければ、意欲ある学生を獲得することは難しいだろう。

筆者も地域科学部の卒業生だ。自分が卒業した学部がなくなるとなれば、ふるさとを奪われるような痛みを感じる。しかしながら、真に地域に求められていないのであれば、時代に合った姿に大学が変わっていくこともやむをえないだろう。

教育・研究活動を通して地域活性化の中核となることは、どの地方の国立大学にも要請されていることだ。地域には先端の科学技術でイノベーションを創出したい企業もあれば、試行錯誤しながら住みやすいまちをつくりたい住民のコミュニティーもある。大学が多様な主体と協同して地域の課題解決にあたっていくために、まずは学内で民主的な合意形成がなされることを期待したい。

石黒 好美 ライター/社会福祉士

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いしぐろ よしみ / Yoshimi Ishiguro

1979年、岐阜県生まれ。岐阜大学地域科学部卒。印刷会社、IT関連会社勤務の後、障害者・生活困窮者の相談支援などに携わる。日本福祉大学福祉経営学部(通信教育部)を経て社会福祉士に。現在は主にNPO、CSR、福祉、医療などの分野で執筆。名古屋の取材・報道チーム「Newdra」メンバー。

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