「情熱の恋」を貫く人は不幸になりやすいのか 「栄花物語」に見る情熱派vs.戦略派対決

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だが、いったんそのムードに入ることができれば、豪華キャストによる華麗な陰謀の一部始終を、障子の隙間から覗いている気分になれる。息が止まりそうになるエピソードが次々と紹介されるが、その中でも、藤原道隆の娘、定子が出ている巻はやはり心を奪われる何かがある。

清少納言が描く聡明で、かわいくて、笑顔と幸せに満ちあふれている定子とはまるで別人で、絶えず涙を流しているそのもろさと壮絶な人生に思わずウルッとくる。

バカな兄のせいで出家することに

定子の没落は父・道隆の突然の死に始まり、状況は兄・伊周(これちか)が、先代の天皇である花山院に矢を射ってしまうことで悪化。出家した花山院が自分の女に手を出しているんじゃないかと疑った伊周が、弟隆家と組んでやっつけようとするわけだが、実は院の相手が別の女だったというアホなオチが待っていた。

気色だたせたまひけれど、けしからぬこととて聞き入れたまはざりければ、たびたび御みづからおはしましつつ、今めかしうもてなさせたまひけることを、内大臣殿は、よも四の君にはあらじ、 この三の君のことならんと推しはかり思いて、わが御はらからの中納言に、 「このことこそ安からずおぼゆれ。いかがすべき」と聞こえたまへば、「いで、ただ己にあづけたまへれ。いとやすきこと」とて、 さるべき人ニ三人具したまひて、この院の、鷹司殿より月いと明るきに御馬にて帰らせたまひけるを、 威しきこえんと思し掟てけるものは、弓矢といふものしてとかくしたまひければ、御衣の袖より矢は通りにけり。
【イザ流圧倒的意訳】
そうこうしているうちに、四の君に猛烈アプローチをしていたけれど、出家した人なんて嫌よと彼女が聞き入れようとせず、花山院がなんとかして落とすつもりで自ら何度もその屋敷に足を運んだ。その動きを察知した伊周が「まさか相手が四の君じゃないだろう。俺の女に色気を使うつもりかよ、このじじい!」と推測して、弟の隆家に「ただじゃすまされない」と相談したら、「俺にまかしておけ」と彼が言い出して、二、三人の人を集めて、朝帰りの花山院を待ち伏せした。脅かすつもりだったでしょうが、気づいたら1本の矢が飛んでしまい、院のお召し物の袖を貫いたわけである。

内大臣にもなり、イケメンとしても政治家としても名を馳せた伊周だが、隆家とのやり取りだけを見るとまるで漫才コンビのようで、カッコつかない。花山院のケガは大事に至らなかったが、誤解に気づいた伊周は真っ青になったであろう。

そして、伊周をうとましく思っていた叔父の道長がその事件のうわさに飛びついてもっと大きくした結果、伊周と隆家は流罪に。2人を逮捕すべく当時の警察である検非違使がわんさと屋敷内に入ってくる中、その様子を目撃した定子はその場で髪の毛を自ら切り落し、妊娠中にもかかわらず即出家。もうなんというか、ドラマチック!!! それを知った夫の一条天皇はびっくり仰天。

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