「地方移住」ですれ違った夫婦を救った時間 2人で開く月1回の「パイナップル会議」とは

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夫婦のすれ違いを話し合おうとしたら、不満の出し合いになりかえってケンカになる、というのはよくある話だ。だが、岡野家の場合、険悪な雰囲気は長く続かなかった。途中、コンビニでフルーツを買って食べながら、互いの気持ちを吐き出してぶつかるだけぶつかると、せっかく会議をしているのだからと、早登美さんの孤独感や閉塞感をどう地域の人の手を借りて軽くするか、というアイデアを出しあう方向に会議の流れを変えた。

「冷静になれば、早登美の今の状況って終わりのない育児と家事でブラック企業に勤めているようなものだ、と思い直せたんです。それをなんとかするために、僕も変わらなきゃいけないし、思い絵描いていた理想の暮らしと違うならそのために何をすればいいかを出し合いました」(春樹さん)

問題を解決するだけが会議じゃない

毎週土曜日の朝はヨガを習う、近所のおじさんに畑仕事を教えてもらう、忙しくてもただいまとおやすみは機嫌よくする、外で自然に触れる機会をもっと作る、春樹さんの仕事ぶりを家族で見る機会を作る――。岡野家の家訓と約束事という原点に戻ると、そんな前向きなアイデアが次々と出た。全部をすぐに実践できいるわけではないが、話し合えたことで、早登美さんの春樹さんへの気持ちや態度も変わったという。

「ちゃんと家族のことを考えてくれてるとわかったら、やっぱり今は忙しいピークの夫を支える気持ちにもなって。家を開ける日があっても、夫の仕事を家族で見に行くチャンスを増やしたり、子どもたちに『お父さんお仕事頑張っているんだよ』と伝えて気持ちよくおかえりを言えるようにもなりました」(早登美さん)

ケンカをしたドライブ会議から1カ月後、2人は庭で薪割りをしながら、会議を開いた。春樹さんの忙しさは変わらなかったし、早登美さんの状況も同じだったが、この時の会議はとても和気あいあいと楽しいものだったという。

火を焚いて、眺めながらの家族会議。この日は子どもたちが起きてきて、薪でスープを温めて家族で夜更かしを楽しんだ(写真:岡野さん提供)

「毎日、本当に忙しいけど、冷静になれば今の暮らしって実はすごく幸せだなって思って。焚き火を囲んでご飯を食べたり、こちらで出会った人に畑仕事や染物を習ったり、人から教わることも増えて、東京にいた頃よりずっと豊かな暮らしができているんだって気がつきました」(早登美さん)

「いろいろ問題はあるし、すぐに解決できないことは多いけど、まずズレがあるならそれを認識するのが大事だと思えるようになりました。月に1度、会議を通して振り返り、家族の形もアップデートすればいい。なんだかんだ言って、思い描いている理想の暮らしに近づいているかなと再確認できています」(春樹さん)

具体的な「問題」を解決する会議もある。しかし、岡野さん夫妻のように、時にずれていっても、家族の理想の姿を確かめ合い、原点に戻る習慣づけとして会議を使うこともできる。新しい家族の形を作っていく土台に、家族会議が役割を果たすこともあるのだ。

本連載「家族会議のすすめ」では、実際に家族会議を行っている方からの情報・質問・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらにフォームにご記入ください。
玉居子 泰子 編集者、ライター

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たまいこ やすこ / Yasuko Tamaiko

1979年生まれ。東京外国語大学卒業後早川書房に入社。主に翻訳書籍の編集を行う。 2005年にベトナムに移住すると同時にフリーランスに。編集・翻訳・ライター業のほか企業通訳を務める。2007年帰国後もフリーで活動を続ける。テーマは、育児・教育、妊娠・出産、育児の悩み、家族のコミュニケーションなど。主な寄稿先は『AERA』、『東京人』、『クーヨン』、『FRaU』、日経DUAL、JBpress、soar-worldなど。過去の仕事一覧はこちら
 

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