評者 東洋英和女学院大学教授 中岡 望
9.11連続テロ事件以降、米国は変わってしまった。
憲法修正第1条から第10条は「権利章典」と呼ばれ、民主主義の基本とされている。修正第4条は、令状なく逮捕、捜査、押収を行うことを禁止している。だが連続テロ事件以降、その精神は踏みにじられてきた。「国家安全保障局による令状なしの通信の盗聴・検閲や、CIAや軍の『特定の人物をターゲットにした殺害』」が日常化している。元CIA職員スノーデン氏の情報暴露や海外要人の盗聴事件が、そうした現実の一端を明らかにした。
米国ではテロを口実にあらゆることが正当化されている。ブッシュ大統領がテロとの戦いは“戦争”であると宣言して以来、「“対テロ戦争”がこの国を根本から変えてしまった」。テロに対する恐怖から「政府が機密だらけの底なしの井戸にはまってしまった」のである。ちなみに欧州ではテロは犯罪の一つとして扱われているにすぎない。
現在、アメリカ政府が保有する機密文書の数は2300万点以上あり、まさに「トップ・シークレットだらけの巨大な秘密政府」になっている。政府は秘密裏に膨大な個人情報を集め、コンピュータに入力している。だが国民は記録された個人情報を知る手段はない。こうした現実に対して著者は、「秘密への強迫観念的な依存は、かえってアメリカ社会を危うくしている」と指摘する。政府は自らの不正を隠すために情報の機密指定を行う傾向がある。機密指定が自己増殖していくのは、歴史の教えるところである。
本書は時宜を得た出版であり、教えられることは多い。日本でも「特定秘密保護法案」が審議されている。政治家は安直な安全保障論に陥るのではなく、民主主義の基本に基づいて慎重に審議を行うべきである。
草思社 2730円 357ページ
Dana Priest
ワシントン・ポスト紙記者。インテリジェンスや軍関係、医療制度改革などを担当。ピュリッツァー賞を2回など、受賞多数。
William M.Arkin
ワシントン・ポスト紙コラムニスト。元米国陸軍情報局の分析官。米国の国家機密や安全保障について豊富に取材。
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