救急車や消防車が来ない社会がやってくる
中原圭介(以下、中原):日本は1945年の敗戦後、団塊の世代と団塊ジュニア世代が大人になっていくにつれて、生産年齢人口(15~64歳)が順調に増加していきました。
その時期を通して、未成年と高齢者の双方が少なかったために、生産年齢人口が生み出した社会の富を未成年の教育や高齢者の社会保障にあまり使わずに済んでいたのです。そこで残った多くの富を、企業は国内投資に、国民は消費へと回すことができたので、日本は1950年代~1970年代に高い経済成長率を達成することができたわけです。
そもそも、1965年には現役世代9.1人で65歳以上の高齢者1人を支えていたので、現役世代1人あたりの負担は大して重くはなかった。ところが少子化が進むのに従い、2000年には3.5人に1人、2015年には2.3人で1人を支えるまでに負担が重くなっていったのです。
生産年齢人口が生み出した富のうち、かなりの部分が社会保障に振り向けられるようになると、企業は将来の人口減少による需要減を見越して国内での投資を控え、国民は将来の不安に備えて貯蓄を優先し消費を抑えるようになって今に至る……。それが日本の現状です。
河合雅司(以下、河合):前回も申し上げたように、団塊の世代が75歳以上になる2025年頃からは社会保障費が激増するだけではなく、医療機関や介護施設、さらにはそのスタッフまでもが足りなくなります。働き手世代が急減していくことで、企業の人手不足は深刻となり、サービスを中心に社会インフラが維持できなくなるのです。
具体的な事例については拙著『日本の年表2』(講談社現代新書)で数多く取り上げていますが、一例を挙げますと、人手不足で救急車や消防車が来ない、宅配サービスが届かない、電車やバスの運行本数が激減する、地域からガソリンスタンドやコンビニが消えてしまう等の弊害が出てくることが予想されます。影響はそれだけではありません。後継者不足で中小企業の多くが廃業し、それによって、中小企業の高い技術力に支えられてきた大企業も競争力をなくし、日本全体の経済力が地盤沈下してしまうことも危惧されています。
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