先送りされてきた「静かなる有事」
中原圭介(以下、中原):日本ではこれから、経済の好況や不況といった短期的ないし表面的な変化ではなく、経済や社会を根底から揺るがすような大きな変化が起ころうとしています。「AIによる自動化」という10~20年単位の中期的な波と、「少子化による人口減少」という100年単位の長期的な波の、2つの大きな波が日本に押し寄せようとしているのです。
「少子化による人口減少」はじわじわとゆっくりと進行していくので、国民は目先の痛みを感じることができずに、人口減少を危機として意識できていない。ところが、リーマンショックのような経済的な危機が起これば、国民にも目に見える激しい痛みが生じるので、政府も急いで痛みを和らげる政策を実施するはずです。
政府も国民も急激な変化には危機意識が働くのに対して、「深刻で静かなる危機」と呼ぶべき人口減少は変化があまりに緩慢であるために、国民がそれに慣れてしまい、政府も対応の先送りを繰り返してしまうという現状にあります。
河合雅司(以下、河合):私は人口減少問題を「静かなる有事」と名付け、長年、警鐘を鳴らし続けてきました。人口減少問題が認識されたのは、はるか昔の1970年代後半からです。この時から学者たちの間には、早急に対策が必要だという声もありました。
しかし、中原さんがご指摘されたように「明日すぐには変化が見えない」ということ、さらには都会と地方などで地域差が大きいということもあって、政府も自治体も経済界も聞く耳を持ちませんでした。1989年に、前年の合計特殊出生率が丙午の1966年を下回る「1.57ショック」があってもなお、「もっと先に取り組むべき課題がある」と見て見ぬふりを続けてきたのです。
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