「高齢者は75歳以上」に定義し直す時が来た 「未来の年表」著者・河合雅司氏に聞く<後編>

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中原:おっしゃるとおりです。東京商工リサーチによれば、日本では2017年に8400社あまりが倒産し、会社の平均寿命は24年にまで縮まってきているといいます。20年後には会社の平均寿命は20年を割り込むとさえ言われています。これまでは1つの会社で勤め上げるという働き方が少なくなかったのですが、職業寿命(50年以上)が企業寿命(20年以下)の2.5倍を超えれば、キャリアを1社だけで完結することがますます困難になっていきます。

中原 圭介(なかはら けいすけ)/経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、ファンも多い。主な著書に『これから日本で起こること』『これから世界で起こること』『アメリカの世界戦略に乗って、日本経済は大復活する!』(いずれも東洋経済新報社)、などがある。(撮影:今井康一)

日本型の雇用慣行のもとでは、会社が社員のキャリアを考えてくれるので、社員が自らのキャリアについて考える必要はありませんでした。企業が社員の入社後に配属先や仕事内容を決めてくれるので、社員はその指示に従ってさえいればよかったのです。

ところが、新しく生まれる数々の技術革新が企業の寿命を縮めていく環境下では、今までのような働き方やキャリア形成は通用せず、転職が前提となる社会への変革が求められるようになっていきます。すなわち、社会人になってから定期的に自分のキャリアを見直すのが常識になっていくわけです。

今後の雇用慣行は変わっていかざるをえず、年齢で一律に引退させる定年は時代に合わなくなってきます。定年の75歳への引き上げどころか、定年の廃止を決める企業が増え、日本人すべてが生涯現役で仕事をする社会へと変化していくことになるでしょう。

企業の「一人勝ち」は、もはや許されなくなる

河合:そのように雇用が流動化していく社会では、年齢によって強制的に退職させることを禁じる労働環境をつくっていくことが求められるのだと思います。もちろん、企業は変わらざるをえません。高齢社会となりますので、人々が一生に働く長さより、企業の寿命のほうが短いというケースがかなり出てくるでしょう。新卒として就職した企業でずっと働き続けるという勤労スタイルがどんどんなくなっていくのだと思います。「定年退職」という言葉自体が死語となるかもしれませんね。

若い働き手が減るのですから「年功序列」も崩壊するでしょう。ましてや、現在、社会問題となっているブラック企業などは早々に倒産することでしょう。若い人材を囲い込んで安い給料で働かせることができるのは、人が余っている社会だからできるのです。誰もが社会のために働かなければならない時代になれば、年齢に関係なく優秀な人が活躍できるようにせざるをえません。若手の登用や抜擢は当たり前となります。

一方、個々人においては社会に出てからも何度も学び直しを求められる社会になると認識しておいたほうがよいかもしれません。自己投資をしてでも個々の能力を磨き続けることが求められるようになっていくのだと思います。

すべての企業が何らかの形で社会課題の解決に貢献しなければならなくなるでしょう。ある意味、それはすごくやりがいのある時代の到来です。企業活動=利潤追求は過去の話で、人手不足社会になると、1社だけが儲ける「一人勝ち」は許されなくなるのです。

中原:繰り返しになりますが、大学を卒業して75歳まで働くとすれば、会社員生活は50年余りになります。会社の平均寿命がその半分以下に落ち込んでいるので、50年あまりの会社員生活は1つの仕事をするには長すぎる状況になっているのです。人間の寿命が延び続けているのに、会社の寿命は縮み続けてきている。両者の間に広がるギャップが大きくなれば、特定の会社や仕事に頼りすぎるリスクが高まっていくわけです。

会社員の中には老後のための資産運用にいそしむ人々が多いですが、定年が消滅していく時代に必要な働き方とは、人生の後半に向けて自らの技術や能力の向上に努めることだと思います。技術革新の伝播のスピードが速く、ビジネスの多様化が進行しているなかで、人生の前半と後半でまったく違う道を歩むこともありえます。自己研鑽を積み、人生後半も仕事を維持するという視点が、会社員の人生設計には重要となってくるのです。

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