「高齢者は75歳以上」に定義し直す時が来た 「未来の年表」著者・河合雅司氏に聞く<後編>

✎ 1〜 ✎ 109 ✎ 110 ✎ 111 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

中原:それらの由々しき事態を回避するために有効な対処法が、定年の延長や廃止にあります。定年の延長や廃止をする企業が増え続けていけば、日本社会にとっていくつもの処方箋が提供されるからです。

ぱっと考えられるだけでも、

・年金の支給開始年齢を引き上げやすい環境をつくることができる
・医療費や介護費の削減に効果を上げることができる
・深刻な人手不足を緩和することができる
・高齢者の将来不安を軽減することができる

といった効果が期待されます。

定年の70歳~75歳への引き上げは、働き手を増やすことで膨らむ年金支給額を抑えると同時に、健康寿命を延ばすことで医療費や介護費の膨張を緩和することもできます。

高齢者の労働参加率が高い地域では、高齢者1人あたりの医療費や介護費が少ないという因果関係がはっきりと認められているからです。また、働くことは頭を使うことにもつながるので、高齢者になり発症することが多い認知症の予防としても期待ができます。

社会保障では、どの世代も逃げ切れない

河合:年金支給年齢を引き上げても、年金財政が改善するわけではありません。ただ、長い老後生活を考えたとき、働けるうちは働くという選択を多くの人がせざるをえなくなるでしょう。ならば、年金をいくつからもらうのか、もっと柔軟に選べるようにすることは重要です。政府は70歳以上でも選択できるように改革する方針を示していますが、受給年齢を引き上げれば、1回あたりの受給額を大きくすることができます。

河合 雅司(かわい まさし)/1963年名古屋市生まれ。中央大学を卒業後、産経新聞社入社。2007年(平成19年)12月から産経新聞論説委員。政治部記者歴が長く、人口政策や社会保障政策を専門としており、内閣官房有識者会議、厚生労働省検討会、農林水産省第三者委員会の各委員、日本医師会「赤ひげ大賞」の選考委員を務める。大正大学客員教授。(撮影:今井康一)

私が、嫌な気持ちになるのが「自分たちは逃げ切り世代だ」という言葉です。こうした発言をする人たちに悪気はないのでしょうが、若い世代が聞いたらどんな気持ちになるのかを少し想像していただきたいですね。

ただ、社会保障費の負担という点では、私はどの世代も逃げ切れないと思っています。就職氷河期に不安定な雇用を余儀なくされた年代の人たちが、今後、高齢化してきますので、彼らの老後の生活費を社会全体で負担しなければならなくなります。年金減額をはじめ、定年後の税や社会保障費の負担増も避けられないでしょう。

また、人手不足についても、高齢者の絶対数がピークとなる2042年に向けて、現在ではとても想像できないような深刻な事態が生じることが予想されます。情報技術やAI(人工知能)の進化でホワイトカラーの仕事では効率化が進むでしょうが、介護、宅配、農業などの分野では相当数の人手が不足するとみられています。

今後の日本では、1人が複数の仕事に就くことは当たり前になるでしょう。現在は副業ですが、「ダブル本業」の時代を余儀なくされるかもしれません。みんなが今以上にスキルアップを図り続け、働かなくては社会サービスが維持できない時代がやってくるのです。

次ページ会社寿命が短命化、自分でキャリアを考える時代
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事