投資するなら若くて貧乏なヤツがいい
ハングリーさの根源は、「モテたい」「有名になりたい」や、子供の頃に手に入らなかったものへの憧憬でも何でもいいのですが、飢餓感がないとやっぱりクレイジーに頑張れないと思います。
特に男性に多いのですが、貧乏だったりダサかったりした昔の自分に復讐することは、時に大きなパワーになります。こうした「ガツガツ感」が起業家には必要です。“オレ最高”の暴君キャラでないと、ベンチャービジネスのスピード感で生き残るのは難しいものです。一方で、最初から何もかも恵まれていても、熔かしちゃう人もいますので、人の闇とは深いものです。そこもやはり意思の問題でしょうか。
人間の能力はそんなに変わらないので、意思の占める要素が大きすぎますし、名のある大企業が不祥事や業績不振で修羅場となったときも、最後はトップが「愛と勇気だけが友達さ」と思えるかどうかだったりします。
ハングリーさやガツガツ感となると、やっぱりまだまだ日本は安心安全、街には安くて楽しいことがあふれていますので、普通の人がハングリーになるのはなかなか難しいと思います。スタンフォード大学でも、「飢餓感の欠如が日本の起業の阻害要因」といった内容の話をしたのですが、シリコンバレーには渋谷も秋葉原もないので、ヒマ過ぎて起業してしまうのだと思います。
年齢を重ねて思いますが、「投資するのなら若くて貧乏なヤツに投資しろ」という格言は、本当だと思います。成り上がりたい人間しか成り上がれませんし、いつかは東京に行って裏原で買い物するんだみたいな、あこがれパワーがないと成り上がれません。一方で、「世界を見ろ、起業しろ、英語やれ」みたいなものは、人の相対的な幸せには関係ないと思います。質問者の方は「最近の本コラムを見ていると、安定志向を勧める論調が多い」と書かれていますが、そのとおりです。
上位1%以内の優秀な人は、メジャーリーグで戦えばいいと思いますが、普通の人は夢に期限を設け、正社員の地位を捨てずに、日常を丁寧に生きればいいと思います。パパがもう少しおカネを稼ぐより、寒い夜にパパにそばにいてほしい子供たちはいることでしょう。ただ、その日常が勤務先の業績によっては終わりがくることがあるので、リスクヘッジするかどうかです。長期的にみればわれわれは皆死んでいきますが、思ったより長く生きてしまうと大変です。
「塩野さんもかつてはリスキーな人生を送り」と見えるとしたら、今は1年戦争後のアムロのようですが、最近では派手さはなくとも、「これしかできませんから」と言える一流の職人さんや、目立たなくても世のため、人のためになっている人にあこがれます。『アルゴ』みたいな開示されない大仕事は世の中にたくさんあることでしょう。会社で普段は冴えないおっさんでも、業績不振の際にみんなに恨まれながらリストラをやり切り、最後に「俺も辞めるよ」とすっぱり去っていく方もいます。
筆者も質問者の方と同様、「ハーバードに留学し、起業」のような話に、友がみなわれよりえらく見ゆる日ばかりですが、一念発起するハングリーさという才能は筆者にはありません。むしろいろいろなものをあきらめていますし、期待値も低いので、こんな貧相な体と頭で「おれ、頑張ったよ」と思っています。
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