自己紹介が記憶に残らない人と残る人の大差 石川善樹が考える「自己紹介」の奥義

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石川:「火男(ひおとこ)」の主人公は、働き者のおじいさんと、怠け者で強欲なおばあさんが主人公です。定石通り「おじいさんは山へ芝刈りに」と来ますが、続いて「おばあさんは川へ洗濯に……は、あまり行きませんでした」と少しズラしてくるので「おっ」と思いますよね。

さてある日、おじいさんはある親切を施し、そのお礼に火の神さまから「宝物」をもらいます。家に帰って「宝物」の包みをおばあさんが開けると、ヘンな顔をした男の子が出てきます。おばあさんは、「これが宝物?」と憤慨しますが、おじいさんは満足げで、火の神さまからの授かり物なので「火男」と名付けます。

火男は、いつもおへそをいじってばかりいます。そのうち、大きく腫れ上がってしまったおへそを不憫に思い、おじいさんが煙管でポンッと叩くと、そこから小判が出てきます。おじいさんは、日に3度ずつおへそを叩き、そのたびに小判が1枚出てくるので、いつのまにか家は裕福になりました。

ある日、おじいさんが山へ芝刈りに行っている留守を狙って、強欲なおばあさんが火男のおへそを攻撃します。火男は必死で逃げ回りますが、最終的にかまどへ飛び込み、火となって火の神さまの元へ帰ってしまいます。

おじいさんは大層悲しみ、火男の顔を模したお面を彫ります。そしてそのお面を、かまどそばの柱に掛けます。

やがて時が経ち、おじいさんもおばあさんもいなくなり、村の人たちも彼らのことを忘れ去りましたが、「かまどのそばの柱に火男のお面を掛ける」風習だけは、長く受け継がれました。そしていつしか、火男の呼び名はひょっとこに変わり、今日に至る……というのが「火男」の物語です。

「自分がどうありたいか」を考える

ここには、「失う、悲しむ、受容する」という物語構造があります。物語の最初と最後で、主人公たちに変化があったわけではありません。自分は何を失って、悲しんで、受容したのか。それがまわりに伝わったことで、後世まで語り継がれる物語になる、という例だと思います。

この物語からは、右肩上がりの人生ではないけれど、「ただ在る」だけでも人に語り継がれる物語が生まれる、ということを学べると思います。「すごい人のすごい物語」ばかり見ていると、「このままじゃいけないんじゃないか」「自分も何者かにならなきゃいけないんじゃないか」と思いがちですが、そうでもないことを、「ただ在る」ことの価値を、『まんが日本昔ばなし』は教えてくれていると思います。

つまり、どれが「いい」「悪い」ではなく、「自分がどう生きていきたいのか」が重要で、自己紹介を深く考えることで、その「自分がどうありたいか」を考えることにつながると、僕は思っています。

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