自己紹介が記憶に残らない人と残る人の大差 石川善樹が考える「自己紹介」の奥義
福井:それは「対立」です。共感される物語では、主人公が何かと「対立」することで、「葛藤」が生まれ、それを乗り越えていくべく物語が「展開」されていくのです。
『モーニング』の主人公たちを分析
例えば「働きマン」は、主人公である編集者の松方弘子が、自分の夢に向かって猛烈に働くために、さまざまな仕事に対する価値観と対立することで物語は動きだし、自分はこれでいいのかと葛藤しながらも、「それでも私は働くのだ」と対立と向き合い話が展開していきます。
あるいは「夏子の酒」は、主人公である夏子が、兄の意志を継ぎ最高の日本酒を造るために、農業界の構造的な問題と対立することで物語は動きだし、本当に自分に造れるのかと葛藤しながらも、周囲の協力を得ながら話が展開していきます。
そういった具合に各作品の対立を書き出し、分類してみると、「対立の構造」とその「共通項」が見えてきました。『モーニング』に掲載された作品の主人公たちの根源的欲求は、大きくわけて5つに分類することができました。
2:何かを正したい(正義心)
3:何かへ冒険したい(冒険心)
4:何かを深めたい(探究心)
5:何かを愛したい(愛)
そして、主人公たちの根源欲求を阻害する要因は、次の3つに分類できました。
2:組織(会社や周りの人など)
3:社会(世の中の仕組みなど)
つまり、『モーニング』のヒットマンガにおける対立とは、5つの「主人公の根源的欲求」と3つの「阻害要因」の組み合わせ、つまり15種類の対立に分類することができます。
例えば「GIANT KILLING」は、チームを強く変えたいという主人公の「変革心」と、どうせ弱いと思っているチーム「組織」が対立している物語だと言えます。
また「N‘sあおい」は、患者を一番に考え、命を救おうとする主人公の「正義心」と、命より効率や利益を優先する病院という「組織」が対立している物語だと言えます。
あるいは「クッキングパパ」は、家族円満でいたいという主人公の「愛」と、家庭料理は女性がするものという「社会」の常識が対立している物語だと言えます。
さらにこのメソッドを使えば、ある実在の人物が、多くの人に愛されたり熱烈なファンを持つ理由を探ることもできます。例えばキング牧師は、人種差別がある社会を「変える」(=変革心)ために、黒人の権利を認めない「社会」と闘ったわけです。あるいは星野仙一は、巨人1強時代を「変える」ために、王者巨人=「組織」と闘ったわけです。