「11歳のときに母が病死し、後見人となった伯母夫婦に引き取られたのですが、遺産を勝手に使われた経験があります。子どもだったがゆえ、世話になっている負い目もあり、何をどう遣い、どれだけ残っているかも聞くことができませんでした」
こんな話が現実にあるのか。取材応募フォームから届いたメッセージを、まるでドラマのあらすじを見ているかのような、不思議な気持ちで読みました。6月に当連載で紹介した、継父に気を遣う18歳男性の話に共感して連絡をくれたとのこと。
百島芙海さん(仮名)、47歳。約束した店で待っていた女性は、意思の強そうな、でもどこか敏感さを漂わせる人でした。迷わずペリエを注文した彼女が、現在は外資系企業の要職にあると聞き、納得したものです。
幼くして母親を失った彼女の身に、その後、何が起きたのでしょうか。
悲しみよりも不安が勝った
芙海さんの両親が離婚したのは、3歳のときでした。どちらに付いていくかと聞かれ、「おかあちゃま」と答えたことを覚えています。離婚原因は父親の浮気。父親とも仲が良かったのですが、このときは母と言わざるをえないことを感じていたそう。
母親は慰謝料として、父親から自宅の売却金3000万円を受け取り、都内の実家近くに部屋を借りて、芙海さんと暮らし始めます。母親は教職に就き収入を得ていたため、慰謝料はその後ほとんど使わなかったものと、芙海さんは考えています。
金額はわかりませんが、母親は芙海さんのために学資保険にも入っていました。幼い頃に保険会社の男性が家を訪れ、目の前で契約したことも、よく記憶に残っています。
ところが小学5年生のとき、母親が30代半ばで突然亡くなってしまいます。がんが見つかったのですが、進行が早く、半年ほどでたちまち他界してしまったのです。
「ショックも何も、まだ死の意味がよくわかっていなかった。よくドラマで、親を亡くした子どもが泣くじゃないですか。あれ絶対、嘘だと思う。私、泣かなかったですもの。それよりも『どうしたらいいんだろう、これから?』と思いました。『私は生きていけるのか? 学校はかわるのか? これから私は、どこで寝るんだろう?』と」
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