母と死別した11歳の遺産はどこへ消えたのか 伯母夫婦宅での理不尽な暮らしと3000万円

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実際のところ、後見人による資産の着服事件は、いまも世間で後を絶ちません。さんざん指摘されてきたことではありますが、やはり制度の見直しが急がれるところです。

街で出会った「感謝の鏡」

怒りのほかにも、芙海さんには戦ったものがありました。それは、伯母夫婦から植え付けられたコンプレックス。私から見ると芙海さんも十分華やかで美しい人ですが、伯母夫婦は芙海さんの性格や容姿をばかにするような言葉をたくさん浴びせてきたため、強い劣等感があったのです。

「言葉の暴力が多い家で、小さいときから『ブス』だの『顔がでかい』だのと、さんざん言われてきました。従姉妹たちは本当に顔が小さいので、一緒にいると、私だけ1歩前に出ているんじゃないか、と思うくらい。コンプレックスでした。

ところが数年前、とあるデパートの下りエスカレーターに乗っていたら、鏡が前に貼ってあって。私、前の人や後ろの人と顔の大きさが変わらなかったんですよ。むしろ私のほうが、ちょっと小さいくらい。『ああ、私は従姉妹より顔がでかいだけで、世間ではそうでもないんだ』ということに、初めて気づいた。いまだにそこを通ると有難くて、『感謝の鏡』と呼んでいます(笑)」

詩的なネーミングに笑ってしまいましたが、とても示唆深い話です。子どもはみな、自分の育った環境しか知らないため、家庭が特殊でも気付けず「自分がおかしいんだ」「自分が悪いんだ」と自責の念を抱きがちです。成長するにつれ、だんだんと己れの環境を客観視できるようになり、「おかしいのは自分ではなく家族のほうだった」と気付くのですが、芙海さんの鏡の話にも、同様の要素があります。

でも振り返ってみれば、こんな境遇でも悪いことばかりではなかったとも、最近は感じるのだそう。

「劣等感があったから、何くそと思って頑張れたところもあります。私、自分が叶えたかった夢は、ほぼ全部叶えているんですよ。30代からビジネスクラスに乗せてもらってバンバン海外出張もしてきたし、数年前には海外の大学院に入学して、海外留学の夢も叶えました。

昔、ある有名な社長さんが『頭の中に鮮明に描けたことは叶う』と言ってくれたんですが、それから本当に私、鮮明に描いた夢は叶っている。だから、私みたいな環境の人でも夢は叶うって伝えてほしい」

コンプレックスを抱えながらも強気で生きてきた、芙海さんらしい言葉です。誰もが芙海さんのようにできるわけではないにせよ、しかし「できない」と思ってしまえば、どんな環境でもそこまででしょう。

「気合ですよ、気合!」。そう笑いながら去って行く芙海さんの背中は、明るい色をしていました。

大塚 玲子 ノンフィクションライター

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おおつか れいこ / Reiko Otsuka

主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTA(学校と保護者)」。著書は当連載「おとなたちには、わからない。」を元にまとめた『ルポ 定形外家族』(SB新書)のほか、『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』(教育開発研究所)『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(同)など。テレビ、ラジオ出演、講演多数。HP

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