その過程で、いつのまにか、中国を統一しようという考え方で戦ってきた異民族も、「中華人民共和国というくくりの中での少数民族」または「広義の中華民族」と定義されるようになっていったと思われる。
このような歴史の流れを理解するには、少数民族を統治してきた中国人(漢民族)の手法を理解する必要がある。たとえば、数年前、中国国家教育部は、民族の英雄とされてきた南宋の武将「岳飛」の名前を教科書から削除した。なぜか。岳飛の名前は日本ではあまり有名ではないが、中国では漢民族にとって、北方異民族を懲らしめた人気の高い英雄だ。実は、岳飛が戦ったのは少数民族のウイグル族であった。
だが、岳飛をあまり祭り上げると「現代の民族対立を煽る」という思惑から、教科書から外したのである。そうして、中国を侵略してきた少数民族に対しても「中華思想」を植え付けてきたのである。
このように利用価値のなくなった英雄を、歴史の事実から抹殺してしまうストーリーは枚挙にいとまがない。ウイグル族やチベット族に対する同化政策の一環として、教科書の内容はどんどん変化していくのだ。
これまでの中国の歴史教育は、中国のナショナリズムを煽るような内容を子供たちに徹底してきた。いわば、洗脳してきたのである。国の歴史と文化に対する過剰な評価と誤解は至る所で散見されるが、これらの過剰評価と誤解を根付かせることで現体制の安定化を継続させているのだ。「中華思想」を刷り込むことで少数民族も同化させながら、領土問題が全中国人の常識になっていったと言っても過言ではない。
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