加担型に関し特記すべき問題に、”Honorary Authorship”という慣習がある。著者が相手への好意のしるしに、あるいは自らの箔付けをねらって、名ばかりの共著者を設ける、いわば「名義貸し」である。共著者があると、一見チェックが働いているかに見え、不正論文の信用性を高めてしまう。
この習慣の廃止を訴える2012年8月31日付の『サイエンス』誌記事"Ending Honorary Authorship"によれば、研究論文の実に25%に、名ばかりの共著者があったという。世界的な問題だが、日本は対策が遅れているとの主張も目にする。
名を貸すだけでなく、共著者が誤った事実を信じてしまうと、事態は深刻になる。2014年に起きたSTAP細胞をめぐる騒動は記憶に新しい。世界的に著名な研究者である笹井芳樹氏は、共著者となって論文を手助けした結果、命を絶つところまで追い込まれた。
科学研究の体制は各国とも性善説で構築する。これは必然で、もし性悪説を取れば、研究も検証も致命的に遅れてしまう。性善説を保ちつつ不正に加担しないためには、主著者の主張の根拠を検証する基本動作が必要である。
不正者の隠蔽が巧妙なケースは多くはない。「根拠なくこんな主張をするはずはない」といった思い込みから、事実確認を怠り、稚拙な偽装を見逃すことに注意が必要である。 共同研究者が名探偵のごとく犯人を見分けるのは無理である。だが、基礎的な事実を確認することは可能であり、励行すべきである。
捏造型の人物には共通する特徴がある
捏造型不正者はもとより科学者ではない。これを見分けて追放する役目は、共同研究者ではなく、指導教官や研究所の管理職が担うべきである。捏造型の人物の心理を研究し、教育研修などでその識別法を徹底すれば、性善説のシステムの下でも、実行は可能である。
捏造型人物には、下記の特徴が顕著である。
(1) 不正に親しんで抵抗がない。ゆえに研究生活のごく初期から不正に手を染める。
(2) 研究の動機が真理探究ではない。その結果、データ管理、研究記録は極端に杜撰である。
(1)は、学生、院生時代に捏造や改ざん、盗用癖などがないか、指導教員が観察すべきである。また、(2)は、実験データを他者がチェックすれば一目瞭然なことが多い。ヘンドリック・シェーン、小保方晴子、佐藤能啓などの「名だたる」不正者は、いずれも重要データを提出していない。適正なデータの取り扱いや実験記録は、労力が大きいゆえ、似非(えせ)科学者は、常にこれらが杜撰である。
捏造型の識別と、そして、発見したら早期に排除する勇気が、アカデミズムに求められる。
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