日本は「科学論文の捏造大国」とみられている

多数の良質な研究を貶める少数の不正常習者

イギリスの研究者は、オークランドの疫病学者ら3名とチームでカルシウムに関する研究を行う中で、メンバーに佐藤氏の異常なデータが、メタアナリシスを歪めていると教える。疫病学者らは驚き、佐藤氏の臨床試験から33を抜き出して、被験者集団の属性データを比較し、異常な類似性を発見する。

チームは、こうした属性は統計的に生じえず、捏造が疑われるとの論文を著し、『JAMA』(Journal of the American Medical Association)など一流誌を含む、佐藤論文の掲載誌に取り下げを依頼する。だが編集者は、不正の審査が仕事ではないとして消極的な対応に終始した。不正を暴く論文も、なかなか掲載されない。2016年になって、アメリカの『Neurology』誌がようやくチームの論文を掲載した。その時点で、佐藤氏の33の不正論文のうち10は取り下げられていた。だが今なお複数の論文が残っている。

3カ月後、佐藤氏は謎の死を遂げる。記者は取材に来日し、代理人弁護士の証言などを得て、自殺であったと示唆する。そして、不正を暴いた不屈の努力の想像外の結果に、動揺する女性研究者の複雑な心境で、記事を結ぶ。

さて記事は、日本は科学論文の数で世界の5%程度にとどまる一方、「撤回ランキング」(撤回に追い込まれた論文の多い人物)では、ワースト10人中の半数を独占するという。出典の、Retraction Watch (「撤回監視団」といった意味)のデータを見ると、確かに、1位(183件を撤回)を筆頭に、6位、8位、9位、10位と、5人が「入賞」している。

これがわが国の科学研究の象徴だと思われては、不本意である。多くの研究分野で日本は高く評価され、21世紀のノーベル賞受賞者13名は、米国に次ぐ世界2位である。ランキングならば、研究者の論文撤回数ではなく、国別の撤回率を比較したいが、これは難しい。Retraction Watch も、いつも聞かれるが、分母の把握が困難だ、としている。

さて、論文撤回とは、どの程度の深刻さか。学術論文の出版規範を議論・制定している国際的組織のCOPE(Committee on Publication Ethics、出版規範委員会)は、論文の変更措置を「撤回」「訂正」「懸念表明」と定めている。最も重い「撤回」を考慮すべき場合は、要約すると以下のとおりで、安易には行われない。

  • (1) 不正または誤りの結果、明らかに結論が信用できないもの
  • (2) 二重投稿、剽窃、倫理に反する研究


たとえば、不正の証拠が決定的でない場合は、懸念表明にとどまり、論文は残る。撤回される論文とは、一言でいえば、有害無益な「世にないほうがよい論文」である。

不正研究を防ぐためには?

論文撤回の原因となる不正研究の防止策を考えよう。

論文不正に関わる人には、自ら好んで捏造を行う人と、共著者などとして、望まずして加担してしまう人がある。前者を捏造型、後者を加担型と区別しよう。

捏造型は、執筆に手間を掛け、発表に積極的である。論文内容は、耳目を引くものが多く、時に荒唐無稽でもある。彼らが「潮流」の原動力である。一方、加担型の関与者は、好んで誤った主張を行うわけではなく、被害者の面がある。同情すべきケースも多いが、不正に巻き込まれれば、問題を増幅してしまう。彼らの問題は、必要な検証を行わずに参加することにある。

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