「子どもと向き合えない」日本の親たちの苦難 時間がありすぎるか、なさすぎるかの両極端

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「本当はもっと、たとえば幼稚園から帰った後も一緒に遊んであげたりとか、テレビから離せたらと思うのですが、夕方はやることがあったり、疲れていたりすると放置になりがちで。おもちゃも散らかり放題なので、つい怒ってしまう。毎日怒ってますね。私が構ってあげていないからそうなっているので、ごめんねと思いながら……」

これには多かれ少なかれ共感する方も多いのではないか。前回書いたように共働きであれ専業主婦であれ、子どもが時間を持て余していれば親たちには「体力を使えるところはないか」「早く寝てほしい!」という切実な願いが出てくる。

以上の事例は未就学児のものだが、小学校入学後も急に子どもが大人になるわけでもなく、親の「子どもと向き合えない」問題は続く。むしろ宿題を見るなど教育面でやることが増えていくのが実態だ。

「子どもとの時間」。のど元過ぎた人からは、貴重なキラキラした時間かもしれないが、渦中の親たちにとってはつねに葛藤をもたらすものである。つまり、長すぎると持て余すが、短すぎると渇望する。

親子には、ほどよい距離、一緒にいるのにほどよい時間の長さがあると思う。もちろん個々の親子によっても異なるだろう。ただ、今の日本の多くの雇用労働者の働き方と、保育園および幼稚園、学校や学童のシステムだと、その「ほどよさ」の確保が難しい。

親子の時間は、父が長時間労働の会社員で母が専業主婦などの場合はものすごく長く、一方で、共働きの場合はものすごく短いという二極化になりやすい。その極端さに、親が四苦八苦しているのではないかと思うのだ。

理想的な「放課後の居場所」はあるか

1990年代前半に10歳の子どもたちの家庭に調査に入り、アメリカの家庭教育の格差を描いた『Unequal Childhoods』という本がある。そこで描かれるのは、中流家庭がスポーツや音楽などの活動とその送迎のめまぐるしいスケジュールに支配され、家族で過ごす時間やきょうだいで仲良くする様子が非常に少ないという実情。それに対し、労働者階級のほうが子どもたちが自由に遊びを生み出し、きょうだいや近所の異学年の友人と親密な関係を築いている。

同書に出てくる労働者階級、貧困家庭はいずれ就職するときに役立つであろう社会的なスキルが得られる機会が少ないほか、治安が悪いエリアでの悪友付き合いにより犯罪などに巻き込まれていくなどの深刻な問題点がある。10年後の調査で明らかになる子どもの学業達成や将来展望においては、中流家庭と大きな差がついてしまうという実態もある。

だが、親がアレンジした習い事やイベントがないとすぐに「つまんない」と言う中流家庭の子どもよりも、子ども同士でルールを決めたり変えたりしながら工夫して楽しむ方法を生み出すほうがクリエーティブな側面もあると、著者は中流家庭に批判的なまなざしを向けている。

はたして子どもは幼稚園や保育園、小学校が終わった後の放課後、どのような環境でどのように過ごすのが理想的なのだろうか。

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