北朝鮮の「CVID」が実現困難と言い切れる理由 金委員長はトランプ大統領にしがみつくが…

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トランプ大統領から他の大統領に代わったら、同じような交渉をできるかどうかわからなくなる。また、今回、アメリカとの仲介役となった対北融和路線の韓国の文在寅政権もいつまでも続くわけではない。2022年の次回の大統領選ではひょっとして保守政権が再び誕生するかもしれない。

70年近くも未解決だった冷戦の遺物が動き出しているのは、こうした「役者たち」の登場抜きにはありえなかったであろう。

核保有国であることの「既成事実化」を狙っている

丹東といった中朝の国境ではすでに、3度の中朝首脳会談を受け、中国が非公式ながらも経済制裁を緩めているとの報道が相次いでいる。国連の制裁決議に表立って背くわけではなく、密輸など抜け穴を通じて人やモノの行き来を容認してきている。

東洋経済が翻訳提携をしている北朝鮮関連ニュースの有料会員制サイト「NK Pro」の7月10日付の記事によると、平壌での直近のガソリン価格も週ベースで今年3度目の下落となった。中国からの原油や重油が一向に滞っていないことがうかがえる。

中国は今後、北朝鮮の核問題をアメリカと協力すべき問題とみなすよりも、北朝鮮と合従連衡する姿勢を見せながら、アメリカとの貿易戦争に対抗するためのツールとして活かしていくと思われる。

北朝鮮は今後、段階的に非核化を進めていくという方針で一致している中露の後ろ盾を得ながら、ますます米朝交渉を有利に進めていく可能性が高い。いずれにせよ、核施設や核物質などの申告や査察の問題、さらには核査察体制の確立など細部の交渉で時間がかかるのは目にみえている。北朝鮮はその交渉の間、自らを核保有国として既成事実化し、体制が保証されることを狙っているとみられる。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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