北朝鮮の「CVID」が実現困難と言い切れる理由

金委員長はトランプ大統領にしがみつくが…

北朝鮮情勢の分析で定評のある共同通信客員論説委員の平井久志氏は、7月9日に神奈川大学で行われた米朝首脳会談をテーマにした国際シンポジウムで、「アメリカが北朝鮮に要求しているCVIDが不可能」との見方を示した。

ソフトボールサイズのプルトニウムやウランはテーブルや机の下にでも簡単に隠すことができる。平井氏は「検証と言っても、北朝鮮がどれほどのウランやプルトニウムを持っているのかわからない。核兵器1個分のプルトニウムでも、ソフトボール1個ぐらいの大きさにしかならない。彼らがそれをどこかに隠匿した場合、検証することは極めて難しい」と指摘した。

さらに「不可逆的と言っても、開発に関与した(北朝鮮の)科学者たちをもし国外に追放し、彼らがシリアやイランにスカウトされれば、それは核の拡散につながる。アメリカがこの科学者たち全員の面倒を見るのも事実上、不可能だ」と述べた。

北朝鮮は核の温存を図ることができる

元防衛審議官で、政策研究大学院大シニアフェローの徳地秀士氏も同じシンポジウムで、北朝鮮の非核化が本当に実現できるかについては「極めて悲観的にみている」と述べた。

徳地氏は「(北朝鮮は)核の削減はできるが、核を完全に放棄することはそもそも難しい。なぜかと言えば、昨年4月にアメリカがシリアを攻撃したときに北朝鮮は何と言ったか。『アメリカは核を持っていない国ばかりを選んで攻撃している。トランプ政権もそれと同じである』と。私はその認識が変わったとは思えない」と述べた。

さらに「おそらくアメリカはイラクに対して行ったように自分で占領して徹底的に調べ上げるということをしない限り、本当に(北朝鮮の)核をゼロにすることは難しいだろう」とも述べた。

北朝鮮はイラクと違って、アメリカに戦争で負けたわけでも占領されたわけでもない。CVIDの完結が、技術的にも政治的にも物理的にも大変難しいことがわかる。筆者が北が核の温存を図ることができるし、図るとみる理由もここにある。

トランプ政権も、北朝鮮の非核化が困難だと徐々に認識し始めている。トランプ政権は歴代政権とは違って、当初は無条件で即時の核放棄であるリビア方式のCVIDを掲げていた。具体的には核廃棄までの期間を6カ月から1年以内としてきた。しかし、トランプ大統領は、金委員長の右腕とされる金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長と6月1日に会談した後に、非核化について「急ぐことはない」と明言。ポンペオ国務長官も6月半ばには「完全な非核化」の期限について、トランプ大統領の1期目の任期が終わる2021年1月を念頭に「2年半以内」と発言した。

さらに、6月下旬になると、ポンペオ長官は北朝鮮との交渉では非核化措置の「期限は設けない」とさえ述べるに至った。なし崩し的に非核化の目標期限がなくなってしまった。

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