北朝鮮の「CVID」が実現困難と言い切れる理由 金委員長はトランプ大統領にしがみつくが…
米朝の最高指導者2人がシンガポールで会い、70年近くに及ぶ両国の敵対関係を解消しようとする会談自体が歴史的に意義があると指摘する専門家が少なくない。筆者はこの見方に懐疑的だ。なぜなら歴代のビル・クリントン元大統領も、ジョージ・W・ブッシュ元大統領も、バラク・オバマ前大統領も金正日氏や金正恩氏と会おうと思えば会えたからだ。
特にオバマ前大統領は大統領選挙キャンペーン中に、北朝鮮やイランの指導者と直接会談に臨むことを公約に掲げていた。しかし、オバマ前大統領は、大統領就任後は実行に移さなかった。核ミサイル開発を続け、瀬戸際外交で脅威をもたらしてきた北朝鮮のトップと会うことは、悪事に報酬を与えることになるからだった。
ノーベル平和賞への色気
トランプ大統領のように、北が実際に核ミサイルを放棄する前に、北のトップと直接会談を開くことはしなかった。トランプ政権は今、米朝首脳会談の開催を通じて、北をすでに核保有国として事実上容認し、核軍縮交渉に入っている。
トランプ大統領は、ノーベル平和賞への色気を見せながら、自らの手で朝鮮戦争を終結させるという歴史的偉業を打ち立てようとする政治的野心を燃やしている。11月の中間選挙や2年後の大統領選挙までに、歴代大統領が誰もなしえなかった外交実績を作り、政権運営や大統領再選の追い風にしようとしている。
このような前のめりなトランプ大統領は、北朝鮮にとっては「救世主」のはずだ。北朝鮮としては、核を温存したまま、朝鮮戦争終結宣言と平和協定を直ちに結び、体制の安全が図れれば万々歳だ。
「強盗さながらの非核化要求だけを持ち出した」と米朝高官協議を非難した7月7日付の北朝鮮外務省のスポークスマン談話では、これまで失敗に終わった実務者レベルからのボトムアップの「古い方式」の米朝交渉から、米朝両首脳の合意に基づくトップダウンの「新しい方式」が高く評価されている。
慶應義塾大学の小此木政夫名誉教授は前述の国際シンポジウムで「北朝鮮は、(アメリカと)何かディールとしてお互いの違いをぶつけ合ったうえで、それをトップレベルの会談によって打開していくことも考えられる」と指摘したうえで、「ですから、これからまだまだドラマは続く。9月が1つの山場だと思っている。9月9日には、金委員長が新年の辞で今年最大の行事と言った建国70周年の行事がある。9月後半にはニューヨークで国連総会もある。トランプ大統領はその頃までには何か成果を上げていなければ、中間選挙には間に合わない。大きな動きがあるとすればその頃ではないか」と述べた。
「われわれは、トランプ大統領に対する信頼心を今もそのまま持っている」。北朝鮮外務省のスポークスマン談話にはこう記された。トランプ大統領にしがみついてでも、体制保証につながる朝鮮戦争の終結宣言や平和協定締結、さらには米朝国交正常化に持っていきたいとの意欲がうかがえる。
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