北朝鮮の人々は米朝会談に不満を感じている 裏目に出た北朝鮮のメディア統制
ついに実現した米朝首脳会談で、米国は大きく譲歩した。ドナルド・トランプ米大統領は、北朝鮮との非核化交渉が続いている間は米韓軍事演習を停止すると語った。
トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が署名した共同声明には、事前の予想とは裏腹に「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)に関する文言はいっさい盛り込まれなかった。CVIDは、首脳会談直前まで米国政府が「唯一受け入れ可能な結果」と呼んでいたものだ。
伏せられていた米朝首脳会談
おまけに、トランプ大統領は北朝鮮政府に対する「安全の保証」まで約束した。これに対して、北朝鮮は「朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力する」と述べたにすぎない。あとは、ミサイルエンジンの試験場を破壊するとの口約束がなされたと伝えられているだけである(しかも、こうした口約束が行われたと述べたのはトランプ大統領であって、金委員長ではない)。
だが、外交的な勝利を手にしたのが北朝鮮であるにもかかわらず、今回の「朝米首脳会談」に関する北朝鮮側の報道は、皮肉なことに国内の一般読者に正反対の印象を与えてしまった可能性がある。報道を見た北朝鮮人は、譲歩させられたのは北朝鮮だ、と受け止めているかもしれないのだ。
北朝鮮では、ごく最近まで米朝首脳会談について報じられることはほとんどなかった。国営メディアは首脳会談が予定されていることすら、何カ月間も伝えてこなかった。時折、「朝米対話」に触れる程度にとどめてきたのだ。
金委員長とトランプ大統領による首脳会談の予定が朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」に初めて載ったのは5月。マイク・ポンペオ米国務長官の訪朝を伝える記事でのことだった。労働新聞は同じ記事の中で、金委員長が北朝鮮に対する「敵対行為」の罪で拘束されていた3人の米国人に恩赦を与えたと報じている。
米朝首脳会談について再び言及があったのは6月8日付の紙面。米朝会談を控えて訪朝したシンガポール外相と北朝鮮側の会談を伝える記事だった。