北朝鮮の人々は米朝会談に不満を感じている 裏目に出た北朝鮮のメディア統制
しかし、米朝首脳会談について報道を控えてきた北朝鮮メディアの姿勢は、6月11日を境に一変する。この日、労働新聞は「アメリカ合衆国大統領との歴史的初会合」に向けシンガポールへと飛び立つ金委員長について、驚くほど詳細な記事を掲載している。
労働新聞はまた、米国政府との間でまったく新しい関係が始まる見通しが現実に出てきていることも、それとなくほのめかしている。首脳会談当日の朝に発行された翌12日付の紙面では、シンガポールの夜の街を散策する金委員長の様子が特集された。金委員長は散策の途中、「シンガポールの経済発展に学びたい」と語ったとされている。
「制裁解除の意向」を報じる労働新聞
首脳会談の翌日となる6月13日付の紙面では、全6面のうち3面半ぶちぬきで会談の様子が伝えられた。
1面に掲載された論説記事は、次のように書いている。「朝米の関係に新たな歴史を開く世紀の会談だ。歴史上初めてとなる朝米首脳会談が行われた。わが党、わが国、わが軍隊の敬愛すべき最高指導者である金正恩同志は、アメリカ合衆国大統領ドナルド・J・トランプとの共同声明に署名した」
労働新聞の報道で強調されているのは、北朝鮮政府と米国政府の関係改善が始まったということだ。金委員長とトランプ大統領の双方が「極度に敵対的だった両国の関係」を終わらせ、「平和と繁栄の新たな未来を開く」決意であると、同紙は伝えた。
労働新聞は、トランプ大統領が「朝鮮側が挑発と見なしている」米韓軍事演習を停止すると約束したことにも言及。会談後の記者会見ではトランプ大統領も米韓軍事演習は「(北朝鮮に対して)挑発的だ」という言い回しを使ったが、この点には触れられていない。
労働新聞はさらに、トランプ大統領が「対朝鮮制裁を解除する意向を示した」とも書いているが、トランプ大統領は公の場でこのような発言をしたことはない(むしろその反対で、非核化が進展しない限り制裁を続けると語った)。
会談で中心的な課題となっていた非核化の問題については、それが共同声明に盛り込まれたことを伝える以上の報道はない。2面の中で一度だけ、次のように記述されただけだ。
「敬愛する最高指導者同志は次のように述べた。両国は朝鮮半島の平和と安定、非核化実現への理解を持ち、敵対的な行動を慎み、これを担保する法的および制度的な措置をとると約束した」
北朝鮮側の共同声明は3面に写真が掲げられ、4面の上段に全文が掲載された。