北朝鮮の人々は米朝会談に不満を感じている 裏目に出た北朝鮮のメディア統制

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6月12日付の労働新聞は、現職の米国大統領に関するものとしては1946年の創刊以来、最も好意的な報道内容となっている。トランプ大統領の名前は「アメリカ合衆国大統領」という完全な肩書とともに「ドナルド・J・トランプ」とフルネームで記された。

「氏」を意味する敬称や目上の人への尊敬を表す助詞(「〜が」や「〜に」を意味する丁寧語)は通常、金委員長の一族に対してのみ用いられる。3月に1回目の中朝会談が行われてから5月に2回目の中朝会談が行われるまでの間は、中国の習近平国家主席に対しても一時的にこうした尊敬表現が用いられていたが、今回はトランプ大統領の名前が単独で記事に出てくる場合にはこのような敬語は用いられなかった。

ただ、金委員長とトランプ大統領の名前が同時に出てくる場面では尊敬表現が使われている。両名を同時に指す場合は、「朝鮮と米国の指導者」という言い回しが用いられるケースが多かった。

大統領の姿を見たのは初めて、という人も

労働新聞に掲載された北朝鮮側の共同声明の文面は、英語版とは若干異なる。4月の南北首脳会談に関する報道でもみられた傾向だ。南北首脳会談では、双方が北朝鮮版と韓国版の2つの共同宣言に署名している。

同紙掲載の朝米共同声明では、金委員長の名前がトランプ大統領の名前よりも先に記載され、太字になっている。ただ、共同声明は金委員長に対して尊敬表現を用いない文体で書かれているため、紙面のほかの部分に比べるとだいぶ中立的な印象を受ける。

トランプ大統領の姿を初めて見る人も少なくなかった(写真:KCNA/北朝鮮ニュース)

労働新聞の1〜3面の大半は、首脳会談の写真で埋め尽くされている。金委員長とトランプ大統領が対等の立場にあるように見える写真もあれば、金委員長がトランプ大統領よりも偉い人物であるかのような印象を与える写真もある。北朝鮮では通常、米国大統領の写真が掲示されることはないため、大統領の姿を目にしたのは今回が初めてという北朝鮮人は多かったかもしれない。

2面にジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と握手する金委員長の写真が掲載されているのが目を引く。北朝鮮に対して軍事攻撃をも辞さないとするボルトン氏のタカ派路線は有名で、同氏は北朝鮮から繰り返し批判を受けている。

そうしたボルトン氏と握手する金委員長の写真が掲載されたことは平和のメッセージとも受けとれるが、これは国内向けというよりは海外を意識したものとみられる。写真の内容を説明するキャプションはなく、たいていの北朝鮮人にとっては誰がボルトン氏なのか見分けもつかないだろう。

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