北朝鮮の人々は米朝会談に不満を感じている 裏目に出た北朝鮮のメディア統制
今回の米朝首脳会談は、客観的にいって北朝鮮政府にとって大きな外交的勝利だった。この事実を朝鮮労働党の機関紙である労働新聞がありのままに報じていること自体が、最大の逆説といっていいかもしれない。
だが、米朝首脳会談で北朝鮮が勝利を手にしたというポイントは、抑制のきいた6月13日付の紙面を読んだ平均的な北朝鮮の読者には十分に伝わらなかった可能性がある。首脳会談の前後で労働新聞が行ってきた報道とは、次のようなものだったからだ。
北朝鮮人の間で反感が広まるのは間違いない
まず、労働新聞がトランプ大統領と金委員長による首脳会談の予定にごく簡単に触れたのは、金委員長が米国人3人の解放に応じたタイミングだった。これら米国人は北朝鮮に対して敵対行為の罪を犯した者たちだと労働新聞は説明。それに続く形で、米朝首脳会談が6月12日に予定されていることを伝えた。
その後、労働新聞は金委員長が会談に向けシンガポールへと旅立ったことを鳴り物入りで報道。翌13日には、朝鮮民族にとって「不倶戴天の敵」であったはずの米国との和解を、早くも話題にし始めている。
報道では、数カ月前に「狂った老いぼれ」と呼んでいたトランプ大統領に対してかつてない敬意が払われ、それと同時に非核化に向けた最高指導者の確固たる決意(これは板門店宣言を踏襲したものだ)が告げられている。
一連の首脳会談について、ほかの情報源をいっさい持たずに労働新聞だけを読んでいたとしたら、普通は次のような見方になるだろう。韓国と米国との交渉の結果、北朝鮮は今まさに「宝剣」、すなわち核兵器を明け渡し、核保有国という「世界で最も誉れ高き地位」を手放そうとしているのだ、と。
核を放棄し、核保有国の地位を明け渡すような決断を下せば、北朝鮮人の間で反感が広まるのは間違いない。現に、北朝鮮情報専門サイトの「デイリーNK」はすでに、米朝共同宣言に対して国民から不満の兆候が出始めていると伝えている。
確かに、北朝鮮は米朝首脳会談で大きな勝利を手にした。だが、交渉過程の大部分を報道から伏せておくという当初の決断は裏目に出た可能性がある。会談について一般的に期待されている結果がどのようなものだったのかをまったく知らされていなかった北朝鮮国民は、実際のところ米朝首脳会談は「敗北」だった、と受け止めているかもしれないのだ。
(文:フィヨドール・テルティツキー)
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