車いすバスケの雄、フェンシング転身の理由 2020東京五輪目指す安直樹を乙武洋匡が直撃

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:この競技のピーク年齢が何歳なのかははっきりとわかりませんが、少なくとも車いすで走り回るバスケよりは上でしょうし、自分の年齢がハンディになるとはまったく思っていません。

乙武: 2020年まで、あと2年。転向から今日までを振り返ったとき、その歩みは順調と考えていいのでしょうか。

:うーん、どうでしょうね。とりあえず、世界ランキングはあまり参考にしていません。それよりも自分はまだ、ようやく基本ができるようになってきたばかりですから、パラリンピックという大目標までの距離を思えば、毎日が苦しいというのが本音です。バスケ時代と違い、どこを伸ばすためには何をすればいいかという経験則がないので苦悩しています。ただ、昨年11月からはようやくコーチも付きましたし、周囲のアドバイスに従いながら、できるかぎりのことに全力で取り組んでいくしかないと思っています。

車いすフェンシングは「逃げ場のない戦い」

乙武:これまで持っていた実績や得意分野を捨てて、まったくの0から、しかも世界最高峰の舞台を目指すというのは、私自身、とても共感できるし、正直、羨ましくもあります。ただ、一般的には理解されないことも多いでしょうし、「なぜ?」と聞かれることも多かったことと思います。改めて、安選手がここまで厳しい戦いに身を投じるそのモチべーションとは何なのかをお聞かせください。

:たしかに周囲から見れば不思議な行動だと思われるのかもしれませんが、車いすバスケ時代も含め、これまでずっと本気の挑戦を繰り返してきた身としては、これは意外と自然な行動なんですよね。自分をどう変え、どう伸ばしていくかを考え、それに向かって動き続けてきた人生なので。

乙武:安選手にとって、パラリンピックとはそこまで魅力のある舞台なのですね。

:自分を最もアピールできる場所ですからね。少なくともパラアスリートであれば、いちばん目指さなければいけない場所ですよ。そのくらいの舞台でなければ、40歳手前にして未経験から挑戦しようなんて、普通は思わないですからね(笑)。

乙武:なんというか、バスケ時代はあれほど野性的で荒々しい雰囲気の選手だったのに、今はずいぶん落ち着いた印象を受けます。

:あ、それ後輩からもよく言われるんです。競技が変わって体が少し細身になったせいもあるのかもしれませんが。

乙武:安直樹、パラアスリートとしての第二幕。車いすフェンシングという競技に賭ける思いを、ぜひ間近で見てみたいけれど、いかんせんルールや見どころがわからないという方も多いように思います。

:車いすフェンシングはひとことで言うと、逃げ場のない戦いです。そして、4年間、血の滲むような思いを重ねてきても、わずか一瞬で、下手をすれば汗をかくこともなく勝負が終わってしまう可能性もあるほどスリリングな競技なんです。初めて見た人にとっては、動きが速すぎて何が何だかわからないかもしれませんが、それも含めて激しい戦いを楽しんでいただきたいですね。今年12月には、京都で日本初のワールドカップが開催されますので、1人でも多くの方に注目してもらえると嬉しいです。

乙武:車いすバスケ時代のワイルドで闘志にあふれた安選手も魅力的でしたが、円熟味を増したいまの安選手にもまた異なる魅力があります。40代を迎えての「逃げ場のない戦い」、私を含め、きっと多くの人が大いに刺激を受けることと思います。本日はありがとうございました。

乙武 洋匡 作家

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おとたけ ひろただ / Hirotada Ototake

1976年、東京都生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』がベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。杉並区立杉並第四小学校教諭などを経て、2013年に東京都教育委員に就任。著書に『だいじょうぶ3組』『だから、僕は学校へ行く!』『オトことば。』『オトタケ先生の3つの授業』など多数。

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