山田ルイ53世が、負けの中に見出した「勝機」 大きく勝って、大きく負けた一発屋芸人たち

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そんなわけで、ちょっと肩に力が入った状態で現場に向かったのだが、案に相違して、百貨店のバックヤードにある小部屋で待っていた山田ルイ53世は、あの良く響く美声と満面の笑みで迎えてくれた。もちろん怒ってなどいない。いや、言いたいことはあるかもしれないが、それをグッと飲み込んで、目の前の仕事に取り組もうとしている。彼はプロの芸人なのだ。

著者の山田ルイ53世(写真:HONZ)

山田ルイ53世は、含羞という言葉が似合う実にチャーミングな人物である。すぐれた芸人というのは例外なく繊細な神経の持ち主だが、山田の気遣いも半端ない。話しの途中、「これはもう他でも話したことなので申し訳ないんですけど」といった断りがいちいち入るのは、一期一会のインタビューで、少しでも読者に届くオリジナルな言葉を発しようとする彼の真摯な姿勢のあらわれだろう。

“一発屋芸人”たちの知られざる一面

『一発屋芸人列伝』は、芸でいちどは世の人々を虜にしながら、その後、坂道を転げ落ちるかのように売れなくなってしまった(かのように見える)“一発屋芸人”たちの知られざる一面を描いたノンフィクションだ。レイザーラモンHG、コウメ大夫、テツandトモ、ジョイマン、波田陽区などなど、実に読み応えのある10の人生が綴られている。

“今回はぼくがリスペクトしている芸人を選ばしてもらいました。人柄が好きというのももちろんありますけど、いちばんは、やっぱりその人の芸ですね”

中には、ハローケイスケのように、ほとんど一般には知られていない芸人も出てくる。本書では、一発屋にさえなり損ねた“0.5発屋”と表現されているが、ハローケイスケが取り上げられたのは、彼が生み出したアンケートネタが、「ツッコミを客に任せる」という極めて斬新なものだからだろう。

“あの芸は、たとえるならiPhoneのようなすっきりと洗練された芸やと思います。普通は怖いと思うんですよね。やっぱり芸人は明確なボケとツッコミがあるほうが安心して舞台に立てるんですけど、客席にダイブするみたいに身を預けるわけですから。それでも笑いをとれるようにしっかり構成されている。ネタのデザインの素晴らしさ、発想の面白さももちろんありますし”

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