山田ルイ53世が、負けの中に見出した「勝機」 大きく勝って、大きく負けた一発屋芸人たち
“ぼく自身、自虐ネタってあまり好きじゃなかったんです。でも山田くんは言葉のチョイスがとても面白くて。だから自虐ネタでもオリジナリティがあって笑える。この本も一章一章、フリがあって、最後にちゃんと回収されてて。つまりネタとして成り立ってるんですよね。それが10本あったんですごいなと思いましたよ。もともと髭男爵のネタは好きでしたけど、やっぱりネタづくりや物書きとしての才能あるなと思いました”
すると、ぼくからは訊きづらいだろうと気遣ってくれたのか、山田自らこんな質問をしてくれた。
“でも、ホメすぎて、実はいい人やって思われてしまうのって、笑いの邪魔になってしまうんじゃないかと実は気にしてたんですけど……”
苦笑しながら、HGはこう答えた。
“いや、たしかに(ホメられて)小っ恥ずかしいなっていうのはあるけど。でも……笑いへの向き合い方が正気じゃない、常軌を逸しているみたいなことを書いてくれてたんで。ちゃんと(プロとしての姿勢を)見てくれてるな、と思いましたよ”
二人の間には、なんとも言えないいい空気が流れている。互いの苦労を知る者同士ならではの雰囲気というのだろうか。二人のやりとりを聞いているだけで、なんだか晴れやかな気持ちになってくるのだ。
負けることの大切さ
本書『一発屋芸人列伝』を通読してあらためて感じたのは、この本は「負け」について書かれているということだ。どの芸人も“一発屋”の呪縛にとらわれ、もがき、あがき、それでも前を向いて生きている。
作家の色川武大は、名著『うらおもて人生録』の中で、負けることの大切さについて書いた。賭け事で連戦連勝するような人間は、決まって命に関わるような致命的な負け方をする。大切なのはうまく負けを拾うこと。最終的に人生9勝6敗くらいを目指すのがちょうどいい……。この感じ、山田ルイ53世の半生にも通じないだろうか。思春期に挫折して引きこもり生活を送り、その後芸人になって大きく勝って、大きく負けて。でもいま再びこの本が評価されて、浮かび上がっている。
“負けのマネタイズかい(笑)。ただ、たしかに負けのほうがいいデータは詰まっている感じはしますね。勝つと嬉しいし、おカネも入って来るかもしれないけど、勝ちは言ってみれば、的にピンポイントで当てること。でも負けると、当たらなかった的のまわりというか、上手くいかなかった範囲がわかる。そこの情報量のほうが大事なんじゃないですかね。ま、といはいえ、この本にはなんの成功の法則もなくて、10の負けが書いてあるだけですけど(笑)”
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