中村獅童「分身歌舞伎」を実現したNTT新技術 企業の"お助け役"で国内事業の底上げ狙う

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技術の難易度は高い。米国ハリウッドのSF映画の撮影などでは、演技する俳優のみを映像から抽出し、コンピュータグラフィックス(CG)による映像世界に後から組み合わせる手法は、当たり前に使われている。だが、いわゆるブルーバックやグリーンバックの前で俳優の演技を撮影するのが一般的だ。被写体と背景の差をはっきりさせ、正確に被写体を抜き出すためだ。

舞台上の獅童さんと背景を瞬時に識別し、獅童さんだけを「初音ミク」と合成した映像がスクリーンに映された(写真:NTT)

一方でNTTのキラリは、舞台上のゴチャゴチャした映像からでも必要な被写体を瞬時に背景と識別して抜き出し、すぐに映像として再現できる。NTTの担当者は「被写体と背景との差を認識する技術は完全ではないが、どんどん進化している」と話す。現状ではまだ、どんな条件下でも被写体だけ正確に抜き出せる段階ではないが、背景との色合いや明暗の差が小さくても、ある程度まで識別できるようになったという。

さまざまな事業者をNTTが技術支援

NTTがこうした技術開発に力を入れているのは、歌舞伎をはじめとするエンターテイメントやスポーツといった分野において、同社が推進する「B2B2X」のビジネスモデルで収益化が期待できると見ているからだ。

超歌舞伎のイベントには大勢の観客が押し寄せ、大盛り上がりとなった(写真:ドワンゴ)

B2B2Xは、鵜浦博夫社長が中心になって2015年から推進している事業モデルだ。「X」には主にコンシューマーのCなどが入る。B2B2Xモデルの最初のBはNTTで、2つ目のBが顧客となる事業者を指す。つまり、B to C(対消費者)などのビジネスを営む事業者をNTTが後方で技術支援することで、収益を得ていこうというわけだ。

超歌舞伎の場合は、製作を手掛けている松竹が直接の顧客となり、Xは観客となる。今はまだ実証実験段階のため、NTTに儲けは発生していない。ただ、将来的には松竹が観客から得るチケット収入の一部を、NTTが得る形のビジネスモデルを想定する。超歌舞伎などで実績を重ねた両社は5月9日、業務提携契約を締結。2019~2021年の3年間、ICTを活用した共同公演を実施することを発表した。若い世代や訪日外国人客にもアピールできる歌舞伎づくりを探り、興行の拡大を目指すという。

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