中村獅童「分身歌舞伎」を実現したNTT新技術 企業の"お助け役"で国内事業の底上げ狙う

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スポーツ分野では、パブリックビューイングを進化させるような形での商用化を模索する。たとえば体操競技で全方位から選手を撮影してリアルタイムで3D映像として再現できれば、現地にいなくともその場で見ているような臨場感を演出できる。結果として技術支援する興行者が入場料を得て潤えば、NTTの収益にもつながる。すでに実用化も視野に入れているといい、「東京五輪での使用を目指している」(広報)という。

通信技術の研究成果を応用

映像音声処理の技術は、NTTが社外でのビジネス活用を想定して開発したものではない。電話などの通信手段を事業の柱にしてきた中で“未来の通信”を想定し、映像や物体もそのまま伝送するコミュニケーションを研究してきた成果だ。そうして磨いてきた技術や、既存事業でも活用している技術を第三者の事業に応用し進化させることで、NTTは別方面でも商機を広げようとしている。

「B2B2X」戦略の推進役を担ってきたNTTの鵜浦博夫社長はこの6月26日付けで退任し、後任に引き継ぐ(写真は2017年8月の決算会見、撮影:今井康一)

このほかにも工作機械メーカー・ファナックにエッジコンピューティング(クラウド上ではなく現場でデータ処理する仕組み)技術を提供したり、Jリーグの鹿島アントラーズ、ベガルタ仙台、大宮アルディージャの各チームと組んでスタジアムのスマート化やIT化を検討したりするなど、既存事業の延長線上で、得意の技術を転用することによりB2B2Xの領域拡大を図っている。

2018年3月期のNTTの通期決算は、売上高が前期比3.6%増の11兆7995億円、本業の儲けを示す営業利益は同6.7%増の1兆6428億円で、14年ぶりに最高益を更新した。傘下のクラウドやITの事業が海外で好調だった。ただ、収益柱のNTTドコモやNTT東日本・西日本の回線事業といった国内事業は、人口減少もあり今後の大きな成長は望めない。

NTTは中長期的に海外事業を成長のドライバーと位置づけつつ、国内の既存事業では「現状維持以上」を目指している。その「以上」を作り出すためには、歌舞伎やスポーツなどとコラボレーションする試行錯誤の積み重ねが大事な一歩となる。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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