北朝鮮交渉では「金体制の保証」が不可欠だ 人道問題から目を背けることはできない
*本記事はトランプ米大統領が米朝首脳会談の中止をいったん表明した日(5月24日)よりも前に執筆されたものです。
4月に行われた南北首脳会談は、韓国では大成功だったとみられている。北朝鮮の金正恩委員長との歴史的会談を受けて、文在寅大統領の支持率は85%へとハネ上がった。
だが、誰もが好意的にとらえているわけではない。北朝鮮の人権問題を首脳会談の議題から外したとして文大統領を批判する政治団体は保守、革新を問わず幅広く存在する。国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルと脱北者支援団体の「リバティー・イン・ノースコリア(LiNK)」のソキール・パク氏は「絶好のチャンスが失われた」と切り捨てた。一方、北朝鮮政策の専門家でブログ「ワン・フリー・コリア」を主宰するジョシュア・スタントン氏は先月、文政権では人権問題に「これまであまり関心が払われてこなかった」のではないかと北朝鮮ニュースの記事の中でコメントしていた。
北朝鮮が目下直面している大問題
このような批判は善意から出てきたものではあるが、重要な点を2つ見落としている。1つは、北朝鮮に人権問題の解決を迫る、これまでの取り組みが効果を上げていないことだ。韓国は過去何年間にもわたって、北朝鮮の人権侵害に対する監視を強化してきた。2016年には当時、保守派が優勢だった国会で、北朝鮮の人権侵害を調査・記録し、責任追及することを目的とした法案が可決されている。だが、このような圧力強化によって北朝鮮国民に対する人権侵害状況が改善されたかといえば、裏付けとなる根拠は乏しい。
北朝鮮駐在の英国大使だったジョン・エバラード氏は、次のように語っている。「(人権問題に対する)国際的な取り組みが北朝鮮の行動に重要な影響を与えたことを示す証拠はまったく見当たらない」。
さらに重要なのは、朝鮮半島が現在直面している問題で、北朝鮮の核開発ほど重大な問題は、ほかに存在しないということだ。確かに第2次朝鮮戦争の脅威は遠のいた。しかし、米トランプ政権が北朝鮮の核施設に対する先制攻撃を検討していると伝えられていたのは、つい数カ月前のことなのだ。米国が北朝鮮を空爆していれば、軍事境界線の北と南の両方で大惨事になっていたおそれがある。犠牲者は1日当たり2万人を超えるという米国防総省の予測に圧倒され、あの時は人権問題に関する見出しはニュースから消えていた。