北朝鮮交渉では「金体制の保証」が不可欠だ 人道問題から目を背けることはできない
また、文政権は北朝鮮の人権問題を完全に無視してきたかのように語られているが、実際はそうでもない。現に、康京和(カン・ギョンファ)外相は3月の国連人権理事会で基調講演を行い、一般国民の扱いを改めるよう北朝鮮政府に求めた。これに対する北朝鮮の反応は、人権問題を引き合いに出せば南北の融和ムードは崩れ、ひいては核問題の解決を頓挫させることになるという、かなりあからさまな警告だった。
文政権はこのような現実に直面し、南北首脳会談には現実路線で臨むことにしたのだ。文氏の現実路線は報われ、金委員長は繰り返し非核化の意思を表明するようになった。韓国情勢の専門家の多くが、北朝鮮の非核化宣言に懐疑的な目を向けるのは当然だろう。しかし、数カ月前のような緊張状態から非核化宣言が出てきたことは、歓迎すべき変化であることに違いはない。首脳会談の場で人権問題を持ち出していたとしたら、このような展開はありえなかっただろう。
児童問題から目を背けることはできない
とはいえ、北朝鮮の人々が直面している人道問題から目を背けることはできない。非核化への流れを維持しつつ、この問題に対処するにはどうすればいいのか。最も効果的な方法はおそらく、韓国と北朝鮮が長年にわたって熱望してきた朝鮮統一の夢を国際社会が後押ししていくことだろう。
南北統一に向けて事態を前進させることは可能だ。「血と歴史、文化を分け合っていること」は70年に及ぶ分断によって生じた違いよりも大きいという点で、南北両政府の見解は一致している。北朝鮮に行ったことがある者ならわかると思うが、北朝鮮は祖国統一のスローガンであふれかえっている。一方、韓国でも統一を望む声は減ってきたとはいえ、まだ過半数を上回っている。
韓国と北朝鮮の政府はともに統一を目的とした官僚組織を持っている(韓国は統一部、北朝鮮は祖国平和統一委員会)。先月発表された南北共同声明の正式名称は「朝鮮半島の平和、繁栄、統一のための板門店宣言」だった。文氏は一貫して、南北の間で一国二制度の連邦制を取り入れる案に支持を表明してきた。また、文氏が統一に関連して用いている「わが民族同士」という言い回しは、北朝鮮政府が長年にわたって発してきた言葉と呼応するものでもある。
もちろん、南北統一は経済負担だけでも相当なものになるため、国際的な支援なくして実現はありえない。しかし、だからこそ、ドナルド・トランプ米大統領と金委員長による米朝首脳会談は、非核化を超えた問題を話し合う絶好の機会となる。