米朝会談は「そもそもの前提」に不安がある 非核化交渉の対象は「北朝鮮」?「朝鮮半島」?

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つまり、北朝鮮が「非核化」の代償として求めているのは「安全確保」である。一方、国際社会が北朝鮮に対する「安全確保」の代償として求めているのは、「北朝鮮の非核化」である。このような関係にあるのに、あえて「朝鮮半島の非核化」とすると焦点がぼやけてしまうことになる。

これまでの交渉では「朝鮮半島の非核化」とすることが多かった。たとえば、2005年9月の6者協議共同声明も「朝鮮半島の非核化」と銘打った。各国の専門家が協議した結果であり、彼らは関連する問題をすべて盛り込んで協議が複雑になっても対処可能だった。

しかし、米朝の首脳にとってはあまりにも細かすぎるし、あまりにも専門的だ。米朝首脳会談を成功させるには、交渉を複雑化することを避け、究極のディールである「北朝鮮の非核化」とその代償である「北朝鮮の安全確保」に焦点を当てるべきだろう。

トランプ大統領と金委員長はともに強く個性的な人物であり、事務方の事前準備の上に立って会談するのではなさそうであり、この会談の去就はいちじるしく不透明であるが、それだけにこのディールが成立する可能性が大きくなるとも考えられる。

拉致問題の解決につなげるには?

では日本はどのように対応するべきだろうか。日本にとっては拉致問題の解決こそが、最重要テーマである。拉致と非核化は別の問題だが、「北朝鮮の非核化」では取り上げられる可能性は低く、「朝鮮半島の非核化」であれば取り上げられるチャンスが出てくると考えられる。

となると、日本としては「朝鮮半島の非核化」を押すべきなのだが、この局面ではそうとも言い切れない。「朝鮮半島の非核化」を目指すことにすれば、扱う問題が広がる分だけ交渉が複雑になり、合意達成がそれだけ困難になるからだ。いずれにしろ、米朝の動きを注視しながら拉致問題の解決に向けて積極的な発言をしていくべきだろう。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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