『海賊とよばれた男』のモデルになった出光興産の創業者、出光佐三氏は、江戸時代の禅僧、仙厓の絵を熱心に収集した。出光美術館で開催中の「仙厓と禅の世界」では、そのコレクションの一部を見ることができる。学芸課長代理の八波浩一さんにお話を伺った。
降臨、元祖ヘタウマ
まだ19歳の学生だった出光佐三氏が、初めて手に入れた絵が、この『指月布袋画賛』だ。美術品の売り立てで見て気に入り、父親に頼み込んで買ってもらったという。
トレードマークの袋を持った布袋さんと幼い子供が空を指さしている。のほほんとした布袋の顔、子供のプリッとしたお尻など、小説の中の海賊とは程遠いイメージだ。「元祖ゆるキャラ」、「元祖ヘタウマ」とも言われている。
「とんでもなく独創的。仙厓の代表作です」と八波さんは言う。
「下手に見えますが、一筆でこのお尻のラインを描くのはなかなか難しい。とびきり絵がうまいとは言いませんが、上手をくずして描いているようなところがある」
絵の横には、「お月様いくつ、十三七つ」という、当時は誰でも知っていた子守唄の一節が書かれている。つまりは布袋さんが子守唄を歌いながら、子供とそぞろ歩きを楽しんでいるのだ。指差しているのは月と思われる。一見、ほほえましい絵だが、実は深い意味が込められている。
「悟りを開いたお坊さんの無垢の心を象徴するのが、円の絵です。心の中にわだかまりがなくなると、一番難しいと言われる円形がすんなり描ける。この世界に存在する最も美しい円形は満月です。ですから月は悟りの象徴と考えられる。布袋さんは、お坊さんが目指すのはこれなんだと、月を指差しているのです」
しかし、月は空の上に輝いていて、そう簡単に手が届くものではない。座禅を組み、ひたすら修業する。悟りまでの道のりが、いかに大変かも示している。
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