現行税制の問題点は、「支出税」で解決できる 読み切り小説:理想の税制

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一郎が語り始めた。

「おじさんへの手紙にはまず『消費税を実現しろ』と書いてあった。大学生のころ、おじさんは外交官になろうと思って勉強していたんだけど、その手紙を見て大蔵省に志望を変えた。大蔵省に入ってからは消費税のことばかりを考えていた。おじいちゃんの手紙には消費税についていろいろ書かれていた。そもそもどうして消費税を導入しなくちゃならないかとかね。最初に手紙を読んだとき、学生だったおじさんは、税金ってすごくおもしろいと思ったことを覚えている。アザミはどうして消費に税金をかけなくてはならないか、わかるかな」

「国におカネがなくて、おカネが必要だったからでしょ」

「それもあるけれども、おじいちゃんの手紙にはそのことは一言も書かれていなかったよ。消費に税をかけるべき理由はいくつかあって、たとえば、所得というのは社会に貢献した人がもらえるものだよね。だから所得に税金をかけると、社会に貢献した人ほど税金を払うことになってしまう。消費は社会からなにかを持ち出すということだから、消費に税金をかければ社会からの持ち出しが多い人ほど税金を払うことになる」

「アリさんばかりが税金を払うのはおかしいからキリギリスも払うべきということね」

「なるほど。いいね、その例え」

と、一郎は親指を立ててみせ、続けた

「それから、たとえば、一発芸人さんの場合。芸人さんがある年にドカンと売れて、でも来年からは売れなくなるだろうと思い、あまりおカネを使わないで、実際に次の年から売れなくなって、そのあとずっとつつましやかな生活を続けたとしよう。でも、所得税は所得がドカンと増えた年にドカンとかかってしまうんだ。消費は計画的になされるから所得ほど浮き沈みがないという点でも税金の基準にするのにいいといえる」

アザミは首をうんうんと振りながら聞いている。

消費税を導入するためには…

「大蔵省に入ってから消費税のことばかりを考えていたといったけれども、実は税金の仕組みを考えていたというよりも、国民の機嫌をどうやってとるかということばかりを考えていたというべきだな。おじいちゃんの手紙には、消費税を導入するためには国民の理解を得ることがいちばん大事と書かれていた。おじいちゃんたちの一般消費税は国民に人気がなさすぎて失敗したからね。おじさんは新聞や雑誌に消費税を紹介する記事を書いたり、講演会をしたり、テレビのコマーシャルを作ったり、そんなことばかりをしていた」

「へえ。いまのおじさんからは想像できないね」

「なんとか消費税を導入できたあと、おじさんは選挙に出て国会議員になった」

「それもおじいちゃんの手紙に書いてあったの」

一郎は、はにかんだ笑みを浮かべ、

「実はそうなんだ。手紙には総理を目指すためには40歳になる前に政界に転じる必要があると書いてあった。親に言われて総理大臣になったなんて、恥ずかしいから人に言わないでね」

一郎は片目をつむってみせた。国家の最大級の秘密を知ったような気がしたアザミは目を見開いて無言で笑った。

「そのころもう二郎が大蔵省に勤めていたから大蔵省での仕事は二郎に任せて、おじさんは政治家として弟たちのサポート役になったんだ。さて、このあたりで二郎おじさんとタッチ交代したほうがいいかな。な、二郎」

一郎はそう言って手のひらを二郎に向けた。二郎はそれに手をぶつけてパシリと音をたてた。

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