「でもね、消費にかける税金、すごく人気がないんだ。お給料とかは月に一回だけど、買い物をするのは毎日だよね。毎日毎日税金をとられると思えば、まあいやな感じがするよね」
「そうかなぁ。どっちにしても払うのだったら毎日でも月に一度でも同じなんじゃないの。それにみんなのために使うおカネなんだし」
「みんながアザミのように考えてくれればいいんだけどね。そうもいかないんだ。それにね、公平な税金は何かというとき、同じくらいの生活をしている人は同じくらいの負担をすべきというのと、豊かな人ほどいっぱい負担すべきという2種類の公平がある。給料の少ない人は食べ物代とか家賃とかで給料のほとんどを使ってしまう。給料をいっぱいもらう人は給料のうちのちょっとしか使わない。だから使った金額に税金をかけると、給料に対する税金の割合は給料が少ない人ほど大きくなっちゃうだろ。それは不公平だという考え方もあるんだ」
アザミは首を傾げた。理解できなかったか。
アザミが言った。
「働いていないけどおカネをすごく持っていて、いっぱいお買い物をしたり旅行したりする人もいるでしょ。お給料に税金をかけるとそういう人の税金が少なくなって、そっちのほうが不公平じゃない」
二郎はアザミの聡明さに触れ、うれしくなった。
「確かにそうなんだけどね。でも、そんなこんなで一般消費税は国民にすごく人気がなかったんだ。おじいちゃんの頃の総理大臣が『一般消費税やります』っていって選挙を戦ったら大負けしちゃった。それで一般消費税は実現しなかった」
「おじいちゃんはショックだったろうね」
遺された手紙
「そのためにずっと働いてきたのだからね。おじいちゃんはそのあとすぐに亡くなるんだけれども、過労に加えて、そのときのショックがあまりに大きかったことが関係しているんだろうな。おじいちゃんはすごく悔しかったはずだ。それでおじいちゃんはね。ぼくら兄弟に手紙を残したんだ」
「手紙?」
「そう。おじいちゃんが死んだあとに僕ら4人兄弟に宛てた4通の手紙が出てきた。そこにはおじいちゃんから僕らへのお願いが書いてあった。おじいちゃんは突然死んじゃったけど、自分が死ぬとわかっていたのかもしれないし、おじいちゃんのやりたいことは時間がかかりすぎて死ぬまでには実現できないから、早めに手紙に書いておいたのかもしれない」
「手紙になんと書かれていたの」
「4通の手紙にはそれぞれ宛て名が書かれていて、僕らは自分宛てのものを読んだのだけど、兄弟のものは読んでいないんだ。だから一郎兄さんや三奈、四郎の手紙に何が書かれていたかは知らない」
「なんて書かれていたんだろう。知りたいわ」
「僕のは教えてあげるし、きっとみんなも教えてくれるよ。もうすぐ兄さんがこの列車に乗ってくる。まずは一郎おじさんに聞いてごらん」
アザミはにこりと笑い、うなずいた。
車窓の田園風景はまもなく地方都市の街並みに変わり、列車は速度を落とし始めた。
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