夢追う夫を本気にさせるために妻がしたこと 読み切り小説:ベーシック・インカム

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夫をやる気にさせるために妻が行ったこととは?(写真:piyato / PIXTA)
【キーワード】ベーシック・インカム

すべての国民に対して生活に必要な最低限の金額を一律に支給する制度。貧困の撲滅、社会保障制度にかかる行政コストの削減等のメリットがある一方で、労働意欲の減退や巨額の財源をいかに確保するか等の問題点が指摘される。アメリカ・アラスカ州など地域レベルで導入している事例があり、フィンランドでは国家レベルでの導入実験が行われているが、2017年時点で本格導入している国はない。

【この小説のあらすじ】

ベーシック・インカムが導入され、国民であれば誰でも1人10万エンが支給されることになった。懸念された財源問題は税制の調整とヘリコプター・マネーにより解決された。小説家を目指す僕は、もうカネのために働く必要はないと喜び会社を辞めて作家業に専念したが、思うように筆が進まない。一方で妻は次から次へと習い事を始め、家計は危機に……。

仕事に興味がもてなかった日々

僕は大学3年のときに地方の文学賞を取り、漠然とではあるけれども、将来は小説家として生きていくことになるのだろうと思っていた。とはいえ、本が売れるようになるまでは小説家専業になるわけにもいかず、大学4年になると友人たちと同じように企業巡りをして、次の春に就職した。

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会社勤めを始めた僕は毎日を悶々として過ごしていた。仕事に興味がもてなかったのだ。でも、働かなければ食べることができないから毎日会社に通った。就職して5年目には結婚し子どももできた。相変わらず月曜日から金曜日がつまらなくてしようがなかったが、会社にすがって生きていかなければならなかった。

ベーシック・インカムの制度が導入されたのは、そんな日々が続いていた就職して10年目のことだ。

当時野党だった労働党がベーシック・インカム導入を公約に掲げ、僅差で保守党を破り議会で過半数を取り、政権の座についた。そしてその2年後、この国の国民でありさえすれば誰でも一定の金銭が支給されることになった。

その金額は消費者物価指数に連動して改正され、今年は1人10万エン。制度導入と同時に生活保護も年金も失業保険も廃止された。それまでは高齢化による年金財政破綻の危機やら生活保護不正受給の問題やらが日々巷間で話題になっていたが、それらはきれいに解決された。

社会福祉を受けることは社会の落伍者とみなす風潮があったがそれも解消され、社会福祉にかかる莫大な行政コストも削減された。さらには、大人も子どもも同額の10万エンが支給されるため、シングルマザーの貧困問題がなくなり、出生率が上昇していまや2の大台に迫る勢いだ。

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