日銀券が強制通用力を失うと何が起きるのか 読み切り小説:法定デジタル通貨

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デジタル通貨導入によって、現金が使用できない世の中になったとしたら…?(撮影:尾形文繁)
【キーワード】法定デジタル通貨

法定通貨とは強制通用力をもつ(債務者が支払いのためにそれを使う場合債権者が受け取りを拒否できない)通貨。複数の国が法定デジタル通貨導入の検討を開始しており、スウェーデンはeクローネ導入の是非を2018年末をメドに決定する。

法定通貨をデジタル化すれば通貨の利便性が増すなどのメリットがあるほか、もし完全に紙幣や硬貨をなくせば通貨保有にマイナス金利をつけることができ、金融政策の幅が広がるという考え方がある。また、資金の流れが明確になるので反社会的経済行為の抑止に資する一方でプライバシー保護の観点から問題があるとの指摘もある。

【この小説のあらすじ】

政府・日銀は法定デジタル通貨eエンを導入し、日銀券は強制通用力を失った。1年間のeエンと円との等価交換期間が終了した。eエン導入により損を被った元相場師と元銀行員、振り込め詐欺師の3人は、日銀券は今後も使われ続け、その価値が上がっていくと予想し、日銀券の買い仕掛けを開始する。思惑どおり円の対eエン価格は上昇するのだが・・・。

店の名は"リスクラバー"

証券取引所の裏手から橋を渡り100メートルほどで路地に入る。そこから数十メートル歩いてさらに細い路地を折れると、中層ビルの立ち並ぶ界隈の谷間にひっそりと建つ平屋の古びたバーがある。店内は外観以上に古く、傷の目立つバーカウンターも、狭い店内に無理やりはめこんだかのようなソファ席も、小ぶりなアール・デコのシャンデリアもいかにも時代がかっている。

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うすぼんやりとした光や、わずかにけぶった空気さえも数十年間変わることなくずっとそこにあるかのようで、初めて店に足を踏み入れた者は皆、時間旅行はこんなにも簡単だったのか、とため息をつく。

店の名は"リスクラバー"といい、昔は株式市場の相場師たちの溜まり場だった。カウンターの一番奥に座る男。宮崎大助。この店の数十年来の常連で、決まってこの席に座る。彼も昔は相場師だった。狙いをつけた株式を静かに買い集め、ある程度買いそろったところで大口の買いを仕掛けて株価を吊り上げる。そして他の投資家を巻き込み株価が十分に上がったところで売り抜ける。この手法で巨利を得る、いわゆる”仕手”を生業としていた。しかし、不公正取引に対する当局の目が厳しくなり、逃げ足の速い彼は仕手から足を洗った。

その後は優良株を探して中長期的に持つ健全な投資家となったのだが、ここ数年は売買をまったく行っていない。彼には極度のテクノロジー・アレルギーがあって、オンライン・トレードを使おうとせず、店頭取引のオンライン・トレードと比べた手数料の異常な高さや注文執行までの遅さがばかばかしくて売買をする気になれないのだ。

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