eエンと円との等価交換が終了したあと、両者のあいだでは外国通貨間のように交換レートが建てられて、時々刻々と変動するようになった。
円の価値は3カ月で10%低下した。ただ、3カ月を過ぎて低下は緩やかとなり、そのころから宮崎たちは円を買い始め、静かに買い増していった。宮崎は手持ちの株式をすべて売却して円の購入資金に充てた。いまだ半信半疑の銀ちゃんは、余裕資金の半分ほどを円に振り替えた。手持ち資金のほとんどないキンゾーは親戚から借りて円を買った。
1カ月後、宮崎たちは円の買い上がりを開始した。宮崎が債券などの流動資産のほか、自宅不動産をも処分して作った資金と、銀ちゃんが借り入れてきた資金を使って円を買い上がっていった。また、宮崎は昔の仕手仲間を引き入れ、銀ちゃんは銀行時代やコンサルティング会社経営での知り合いを巻きこんで、円買いの参加者を増やした。
上昇に勢いがつくと、群がる人々
円は上がり始め、上昇に勢いがついていった。円がしっかりと上昇していくのを見た人々が、円の向かう方向は上であると確信して円買いに群がったのだ。
ちょうどこのころ、eエンに年利0.5%のマイナス金利が適用されることになった。わずか0.5%といえども、時とともに所持金が減っていくと知った人々は大いに不安になった。消費を急いだが、手持ち資金のすべてを使い切ってしまうわけにもいかない。人々は円に目をつけた。半年前まで使っていた円札は券面に金額が印刷されているのだから減価することはないし、昨今円はeエンに対して高くなりつつあるというのだから、円に飛びつくのは当然のことだった。そしてこの行動が円をさらに押し上げた。
円は猛烈な勢いで上昇し3カ月後にはおよそ2倍となった。eエン導入以前に非法定デジタル通貨の“ビットマネー”が短期間に急騰したことがあったが、そのときとまったく同じような値動きであった。
強制通用力を失った円は投機の対象に成り下がったのだった。
宮崎は旅に出ることにした。仕手戦であれば最後は売り抜けなければならない。しかし、円を売ったあとにeエンを持つ気にもなれないので、売った円で何を買うかを考えなければならなかった。宮崎は、株式や不動産を買い戻し、残りは電子化されていない外貨を買って、その国に移住してしまおうと考えたのである。この旅行はそのための下見であった。
宮崎は深夜出発のフライトの前にリスクラバーに立ち寄った。
店にはキンゾーがいて、まだ8時前だというのにすでに相当の量を飲んでいるようだった。
1時間が過ぎ、空港に行こうと腰を浮かせたとき、キンゾーが絡んできた。
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