
日本の多くのメディアは、ドナルド・トランプ氏をアメリカ政治の例外的な存在と捉え、「彼の気まぐれが政策を左右している」と考えがちだ。しかし、この認識は根本的に間違っている。トランプ氏はアメリカが抱える構造的変化を体現しているもので、いわば象徴的存在だ。

実際にアメリカ社会では、有権者の転換、経済的格差の拡大、そしてグローバル化への深い懐疑を背景に、政治的な地殻変動が起きている。この流れはトランプ政権後も続き、アメリカの国内政策や外交、経済戦略を今後規定するだろう。
かつての安定と経済自由主義を象徴した「グレート・モデレーション」(「大いなる安定」)の時代は終わった。1980年代のロナルド・レーガン大統領とポール・ボルカー議長の時代以来、アメリカは低金利・低インフレと安定した金融市場を基盤に、世界の投資家に安定した成長機会を提供してきた。また政治面でも、中道派が超党派でグローバル化や自由貿易、国際協調を推進してきた。このコンセンサスが2001年12月の中国WTO加盟を促し、中国を「世界の工場」に変えたのだ。
しかし現在、そのコンセンサスは完全に崩壊している。中国への生産移転はウォール街には利益をもたらしたが、アメリカの中産階級には深刻な打撃を与えた。中国のWTO加盟後の10年間でアメリカは約240万人の雇用を失い、20年で最大370万人に達したとの推計もある。
この「チャイナショック1.0」は、それまでのアメリカ社会を壊滅的に痛めつけ、現在もその後遺症が政治的緊張を生んでいる。表面的には失業率4.5%で安定して見えるが、中期失業者は230万人、長期失業者は170万人に達している。
内政優先が新常態に
「将来の希望がない」と感じた有権者が政治に解決を求めるのは当然であり、ここにAIによる雇用破壊への不安も加わっている。こうした理由から、アメリカでは今、国内の経済政策が最重要課題として定着したのだ。これは一時的な現象ではなく、アメリカ社会全体の構造的な政治再編だ。
アメリカは今や超党派で戦略的産業政策を推進し始めた。両党に共通するのは、製造業の国内回帰を促し、中間層の雇用を創出するという明確な目標だ。
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