ナイキ創業者の「破天荒すぎる人材活用」伝説

元ナイキジャパン社長「あれには僕も驚いた」

翌朝、見回してみると、フィルに食い下がっていた幹部がいない。そばにいた社員に事情を聞くと、「彼は6カ月間の暇をもらった」と。「えっ!」と驚いたら、彼が言うには、「給料は出るけれど、出社するなってことだよ。言うのを忘れていたけど、わが社ではよくあることなんだ。あいつも、こいつも……実は俺も」と。

後からわかったのですが、フィルは徹底的に議論する人で、妥協する人間は嫌い。でも、意見が異なる人を会社に置いておくわけにいかない。そこで6カ月、間を空けて、お互いに頭を冷やして、やる気があるなら続けていいし、辞めてもいいと。普通はクビですよね。「ここがフィルだな」と感じました。

私もフィルからこう言われたことがありました。「秋元、これはお前が今後、マネジメントをするうえで大事なことだ」と前置きしたうえで、「自分がおかしいと感じたら、とにかくそう言え。そういう勇気をもて。Aggressive Honesty(過激な正直さ)、それがわが社のバリューの1つなんだ」と。僕は決して、従順なタイプではなかった。でも、さすがに6カ月間も仕事から放逐されるのは嫌なので、言動には気をつけていました(笑)。

「グジュグジュしている」フィルの素顔

――フィル・ナイトは独断的なカリスマ経営者だった?

秋元 征紘(あきもと ゆきひろ)/元ナイキジャパン社長。1944年生まれ。1993年から1995年まで、ナイキジャパン代表取締役社長を務める。ナイキ創業者フィル・ナイトとビジネスで深く関わった経験を持つ。1970年日本精工入社。ニューヨーク、トロント駐在を経る。その後自ら起業するも失敗、35歳のときに時給600円のアルバイトとしてケンタッキーフライドチキンで働き始めて人生を再スタートさせ、日本ペプシ・コーラ副社長、日本KFC常務取締役、ナイキジャパン代表取締役社長、ゲラン(LVMHグループ)代表取締役社長・会長などを歴任。現在はジャイロ経営塾代表、ワイ・エイ・パートナーズ代表取締役。著書に『こうして私は外資4社のトップになった』(東洋経済新報社)、『一流の人たちがやっているシンプルな習慣』(フォレスト出版)、『ビジョナリー・マネジャー』(クロスメディア・パブリッシング)など(撮影:今井 康一)

いや、そういうタイプではないですね。一言でいうと、グジュグジュしている(笑)。明快なイエス・ノーを言わない。一つひとつの案件について、すぐに反応しないんです。

『シュードッグ』でも、正社員第1号のジェフ・ジョンソンがしつこく手紙を出しているのに、フィルはほとんど返事をしないという記述がありますよね。万事、そんな感じです。ちなみにジェフは、ハンサムで最高な男でした。変わり者で、フィルの悪口も臆せず言っていました。

当時、フィルは社内で「PK」または「PKファクター」と呼ばれていました。彼の影響力は圧倒的でした。時間をかけてみんなで議論して、「これで行こう」というところまで詰めても、「ちょっと待って。PKの意向を聞いてから決めよう」となるのです。

マイケル・ジョーダンとの契約にしても、いくらで契約したか、社内の誰も知らない。社内で聞くと、「PKに聞け」と言われるんです。アスリートとの契約の多くは、フィルの独断だったんですね。当時はナイキといえばフィル・ナイトであり、いうなれば彼の一挙手一投足がナイキだったんです。

フィルはおカネが払えなかったり、FBIに捕まりそうになったり、政府から2500万ドルを請求されたり……、いろいろなピンチを経験しますよね。それで僕は思ったんです。フィルはおカネに関することも含め困難をすべて自分で背負ってきた。いろいろと苦労してきたからこそ、即座に安易な決定をすることはしないんだと。

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