ナイキ創業者の「破天荒すぎる人材活用」伝説

元ナイキジャパン社長「あれには僕も驚いた」

ホテルの中庭を散歩しているフィルに、「Hi Phil !」と声をかけたら、彼は私がまだナイキの仲間であるかのように話しかけてくる。だから、「僕はもうナイキで働いているんじゃないよ」と言うと、悪びれもせず、「ああそうだっけ。まあいいか」なんて軽いノリでいましたね。そのとき、「とんでもなく悪い奴だな」と思いました(笑)。

フィル・ナイトは悪い奴だった?

――フィルは悪い奴だった?

いえ、逆にこんなこともありました。僕がナイキジャパンの社長に就任したときに、フィルがメッセージをくれたんです。「お前はポートランドで評判がいいから、日本でも受け入れられるように頑張れよ」といったことが書いてありました。そのメッセージは、今でも額に入れて大切に飾ってあります。

社長就任時に送られてきた直筆のメッセージ(撮影:秋本征紘)

『シュードッグ』でも、裁判で公正な発言をしてくれたイワノさんがオニツカを退職したとき、電話1本してあげなかったと後悔していますね。フィルとけんか別れをして、アディダスに移った盟友のロブ・ストラッサーをつねに裏切り者呼ばわりしていましたが、彼が心臓発作で亡くなったときは、本当に残念がっていた。それは当時のフィルのスピーチを聞いていたからわかります。彼にはそういう気配りがある。憎らしいとも思いますが、尊敬できる、いい兄貴なんです。

――人間的な魅力にあふれた人だったのですね。

今思うと、あんなに遊び心があって刺激的な人はいない。フィルは東京のレストランをよく知っていて、2人で「どちらが選んだレストランがうまいか」を競ったこともありました。1度、彼が選んだレストランが移転してしまい、つまらない店になっていたときには、本気で悔しがっていましたね。

そして、フィルらしいなと思ったのは、全資産の約2.8兆円を慈善事業に使うと宣言したこと。この本の最終章にもそれが記されています。彼は、長男を亡くしたときからそう思っていたと言うんですが、次男はまだ生きている。ビル・ゲイツですら、慈善事業には資産の半分しか割いていない。おカネに翻弄されない人ですね。

彼はもちろん大富豪ですが、すごく高級な家に住んでいるわけでもないし、そうした贅沢には興味がない。ただ、車だけはたくさん持っていました。特にホンダのスポーツカーが好きなんです。彼の車のナンバープレートは特製のジュラルミンでできていて、そこに「NIKE 1」と書かれている。アンテナには、テニスボールが刺さっていて、本社の駐車場にその車があると、今日もフィルが来ているんだなと思ったものです。彼は「これが俺の贅沢だ」と話していました。

私の社長就任会見のとき、彼は、ホテルのメモ用紙に箇条書きにした4つか5つの文章だけで、見事なスピーチを行いました。日本人の経営者の方々は、人からどう見られるかを気にする人が多いと思いますが、フィルは自分らしくいられるかどうかを重視していました。自分の言葉で話すことができる人だった。

パリのホテルで再会したあと、実はフィルに手紙を書いたんです。「あなたのおかげで健康になったし、もちろん、たばこも吸っていない。またホノルルを駆けることができた。ありがとう」と。

彼は本当に魅力的な人でした。もし機会を与えられるなら、これからも、もっとフィルのことを紹介していきたいと思っています。

(構成:大内 ゆみ)

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