「学資保険」を信奉する人が気づかない切り口 「お得かどうか?」の問いが実はナンセンスだ

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ただし、リスク・リターンも人によって、場合によって順位が変わる。上記の比較は固定金利で計算しているため、変動金利でなおかつ金利上昇がなかった場合は繰り上げ返済より学資保険のほうがリターンは高い場合もあるだろう。

また、多額の貯金があり、数百万円程度では資金繰りに影響を受けない場合はリスクは考慮せずリターンの順番だけで使い道を決めてもよい。分散投資の観点から、限られた資金で繰り上げ返済と学資保険を併用するという判断もあるだろう。

学資保険なんてどうでもいい

先日、学資保険についてSNSでつぶやいたところ、「私は教育資金を学資保険や定期預金ではなく投資信託で運用している」というコメントがついた。筆者は「リスクを承知のうえなら別にいいんじゃないですか」と回答した。

SNSだからっていい加減な返答をするなと文句を言われそうだが、有料相談でも同じ解答をするだろう(もう少し丁寧な回答にはなるが)。投資信託もいろいろあるが、株で運用するハイリスクなものでも特に問題はない。

先ほどのリスクとリターン、そして分散投資の観点から考えれば、以下の2つは表現方法が違うだけで、やっていることはどちらも同じだ。

① 教育資金を株で運用して、残りは貯金

② 教育資金を定期預金で貯め、余剰資金を株で運用

②の説明を聞いて問題があると感じる人はいないだろう。このように考えていくと、学資保険はお得かどうか?どの学資保険がお得か?という話がいかに狭い範囲の小さな議論かわかってもらえたのではないかと思う。

結局、学資保険はお得かどうか?という問いは、問い自体に問題があるといえる。リターンとリスクはセットで考える必要があり、なおかつ教育資金という狭い範囲だけで考えること自体が間違いだ。

おカネに色はついていないと説明したとおり、このおカネは教育資金、これは住宅ローンの繰り上げ返済用、と過剰にカテゴリを分けて貯蓄することはかえってマイナスの効果しか生まない。重要なことは手元の資金をリスクとリターンで最適な形で使い、運用することだ。

リスク・リターンを慎重に考えたうえで学資保険が最適、という結論にたどり着いたなら、それは別に否定するものではない。「教育資金を貯めるなら学資保険」という名称やイメージに流されずに判断するのがベターだ。

中嶋 よしふみ FP、シェアーズカフェ・オンライン編集長

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なかじま よしふみ / Yoshihumi Nakajima

1979年生まれ。2011年にファイナンシャルプランナー(FP)のお店・シェアーズカフェを開業。翌年に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5カ月で月間アクセス14万件を突破。現在は、各種士業や大学教授など、多数の専門家が書き手として参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営。日経DUAL、アゴラ、Yahoo!ニュース個人、ハフポスト等で執筆中。その他多数の媒体で情報発信を行う。対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを提供、とくに住宅購入のアドバイスを得意とする。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業中。お金よりも料理が好きなFP。

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